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G-Club Tokyoに訊く『マーフィー・ラボ』の魅力

 

G-Club Tokyo  藤川 忠宏 氏に訊く『Murphy Lab』

トゥルー・ヒストリック以降の課題だったエイジド技術

-マーフィー・ラボによる製品がG-Club Tokyoにはたくさん入荷しました。それと藤川さんは、ギブソンの専門フロアスタッフとして、長年にわたりギブソンカスタム製品を取り扱っています。今回は、藤川さんの視点から、話題の“マーフィー・ラボ”とそのギターたちのセールスポイントについてお伺いしたいと思っています。まず、ギブソンカスタムのマーフィー・ラボがどんな施設かについて教えてください。

(G-Club Tokyo : 藤川 忠宏氏)最初にお断りしておきますが、コロナで私も渡米できない状況が続いています。ですので、私自身はまだナッシュビルの工場には行けていません。日本のギブソン専門店として、日本のギブソンスタッフ、アメリカのギブソンスタッフとの交流、それから、各種の資料で知る限りの答えでよろしいですか?

-もちろんです。

(藤川 氏)では、続けさせてもらいます。まず、マーフィー・ラボはナッシュビルのギブソンカスタムショップのファクトリー内にあります。そこは以前のカスタムのヒストリックプログラム・マネージャーだったエドウィン・ウィルソン氏(現在は退社)が、製品の開発や製作をしていた部屋を改装した場所ですね。その場所では、以前からエイジドの加工をしていたり。トム・マーフィー氏も作業の際に使っていた場所です。

-ギブソンから公式に“マーフィー・ラボ”という施設を作るというアナウンスがされたのは、2019年の暮れでした。
https://gibson.jp/news-events/10175

(藤川 氏)実際には、そのアナウンスよりも前から、ギブソンでは塗装やエイジドの研究は続けていたようですね。完成度が極めて高いトゥルー・ヒストリックの登場以後、エイジドを含む塗装関係を、さらに進化させたのは流石です。余談ですが、2013年頃、私はエドウィンがトム(・マーフィー)から、あるラッカーの種類を薦められたと聞いたことがあります。それからしばらくしたら、カスタム製レスポールのラッカーが変わりました。他にも数年前にメンフィスのスタッフがナッシュビルに移動しましたが、そのスタッフもナッシュビルではエイジングの研究をしているとも聞いていました。だから、発表の直前ではではなく、もっと長い時間や多くのスタッフが絡んだ大きなプロジェクトとして進められていたと思います。さらに、今回、トム・マーフィー氏が加わって、彼のエイジド技術と塗装の素材レシピを基にナッシュビルの工場の一部を改装。ウェザーチェックを生む仕組みを彼を中心としたチームが開発。そうして、彼の名前を冠した『マーフィー・ラボ』が作られたのでしょうね。

-藤川さんは、これまでにもトム・マーフィーの塗装やエイジドの技術を見ていらっしゃいますが、どう評価されますか?

(藤川 氏)私が評価するなんて畏れ多いです。ただ、トムは私たちの何十倍のヴィンテージを見て、リフィニッシュなども手がけています。そのため、元々のギター個々の特徴をよく踏まえていて、知識も経験もあります。さらに、技術もアート作品のように見事です。目の前でエイジドの加工を見たこともありますが、まず作業が早いのに驚きます。

それと、以前在籍していたエドウィンは、オリジナルを細部まで徹底的に調査して、“元々はこういう仕様だった”というスタンスで再現しましたよね。でも、トムは、“今、こうなっている”という状態をリアルに再現する方法です。どちらも凄いのですが、トムには(経年変化を待たず)今を再現するというアプローチの違いがあるように思います。

-それはわかりやすいですね。同じ再現でもVOSとエイジドとでは根本的なスタンスが全く違いますから。

(藤川 氏)あと、ダメージの加工は塗装の表面側からするけど、ウェザー・チェックは特殊な設備を使った塗装被膜の下側から入るなど、様々な方法が組み合わされていて面白いです。

マーフィー・ラボの4つのグレード

ラインナップは
https://gibson.jp/collection/murphy_lab
を参照。

グレードは全4ランクがあり、下記のような違いがある。

 

G-Club Tokyoに入荷した製品を見て

-『マーフィー・ラボ』の製品は3月20日頃に日本でも最初の製品が入荷しました。G-Club Tokyoには何本入荷しましたか?

(藤川 氏)最初の入荷はレスポールとES-335を合わせて25本ぐらいでした。続いて4月末にも少し、その後も少し・・と追加で少しずつ入ってきました。

-売れ行きはどうですか?

(藤川 氏)早いですし、ヒット商品ですね。ES-335(1961年タイプ)は3本入って、すぐ。レスポールも強いエイジドが入っているものから先に売れて行きました。エイジドが強くなるにつれて値段も上がるのですが、それでも、ヘビーなエイジドの方から売れました。今(2021年4月26日時点)は入荷本数が多かったライトとウルトラ・ライトが店頭に並んでいます。この後、64年タイプのES-335も入りますね。

-すごいですね。

(藤川 氏)今回は、事前に色々憶測が流れていて、例えば「トム自身がやってないんでしょ?」みたいなネガティブな声とか。でも、そんな人ほど店頭で実物を見て、弾くと納得して買ってしまうようです(笑)。見た目だけでなく、音も良いんです。

-音も違いますか?

(藤川 氏)はい。ラッカーが変わったことが大きいと思います。まず塗装被膜が硬くて、薄いです。クリアラッカーを独自で配合したらしいです。エイジドの加工では、硬い方が自然にウェザー・チェックが入りやすいと思います。私には詳細はわかりませんが、おそらくそういった科学的知見に基づいて開発されていると思います。また、ラッカーの塗装回数や1回ごとの厚さも違って微妙に変えているかもしれません。

-なんか(店頭の)隣のVOSより、ボディのラウンドの凹みというか、エッジが沿って見えますけど・・?

ギブソンに確認しました。カーブ自体は変えていないらしいです。おそらく、塗膜が薄くなった分、下地の凹凸や形状が、これまで以上にクッキリと見えているんだと思います。

-2013年頃からでしたっけ?意図的に厚みを変えていたようですね。

(藤川 氏)塗装は硬い方が自然にも割れやすいから、エイジド加工もしやすいと思いますよ。しかも、薄いから、ヴィンテージっぽい音にもなります。今回は音も今まで以上に「こんなに違うか?」というほどヴィンテージっぽいです。

-どんな風の音に感じますか?

(藤川 氏)音の反応が早く、弾くのが楽です。立ち上がりが良くて、それでいて耳に痛い音にならない。その辺はヴィンテージの音に近い要素だと思います。よく新品のギターは「弾いてギターを育てる」といいますけど、このギターは全然その必要を感じません。それと、ネックなどの手に触れる部分のラッカーの感触がヴィンテージに大変よく似ている気がします。ヴィンテージの塗装は長い時間をかけてシンナーが揮発しますよね。その揮発した後の感触に近い。マーフィー・ラボの製品ではヴィンテージのような感触になっています。

ヘビー・エイジドとウルトラ・ヘビー・エイジド

今回、タイミングを逸してHeavyとUltra Heavyの取材ができなかった。そのため、ギブソンによる公式写真を下記に載せておく。

 

プリ・プロダクションの400本と今後の入荷見込み

-だから、レスポールを知っている人ほど、マーフィー・ラボを店頭で見て、弾いたら、そのままお買い上げ、ってお客様も多いんですね?

(藤川 氏)でしょうね。それと今入ってきているのは“プリ・プロダクション”と言って約400本限定の製品なんです。これはマーフィー・ラボが主導して企画、製作しています。今回は、色とエイジドの度合いをマーフィー・ラボが組み合わせてラインナップしたもので、ウルトラ・ライトの59年はファクトリー・チェリーやダークバースト。ライトでは褪色がはじまったような、ほど良いレモン・バーストとか。実際の経年変化を想定したような色とエイジドの組み合わせになっています。

その400本が終わると、当店のようなショップレベルや日本限定などのランダムなオーダー内容の受注生産に移行するようです。ただし、今はコロナの影響で、現地での材選定ができません。それに、カスタムショップ内での生産スケジュールもタイトだと聞いています。ですから、次回以降の入荷は間隔がかなり空くのでは、と予想しています。なので、気に入った個体があれば、お早目にご購入いただくことをお勧めします。その意味でもマーフィー・ラボは足が早いタイプの商品ですね。

当店ではプリ・プロダクションもほぼ全色、全組み合わせでオーダーをしましたが、運よく、3月には大部分が入荷したんです。今後は残りわずかの入荷で完売となりますので、当店のホームページやSNSで情報をチェックしてもらいたいと思います。

-ゴールド・トップやカスタムも入荷しましたよね?そちらはどうですか?

(藤川 氏)量的にはサンバーストの方が多いですけど、ゴールドやカスタムもあります。特にソリッド・カラーはカーブの起伏がよりクッキリと見えて一層リアルですね。それぞれ独自の雰囲気もかなり再現できています。ただ、例えば黒カスタムなんかは、トップにVOSやエイジドに使用されるワックスのようなものが塗られていて、少し曇った感じになっています。なのでピカピカに磨いていた方が、よりヴィンテージっぽいリアルな雰囲気になると思いますよ。

-こうやって店頭で何本か並べてみていると、同じ特徴のギターは完全に1本もないですね?

(藤川 氏)エイジドはそれが魅力ですから。でも、打痕なども自然な場所に、自然な付き方になっています。

-お客様にとって自分だけの“当たり”個体を見つけてほしいですね。

(藤川 氏)マーフィー・ラボでは、色々なエイジドの方法を組み合わせているようです。それにより塗装の割れ方やダメージが異なる。ヴィンテージの修復などを通じてトム・マーフィーが研究してきた経年変化の“原因”と“結果”、彼は技術として“それらを再現するレシピ”を持っていました。それが、彼自身だけのものではなく、組織であるギブソンカスタム内で、継承されたということです。それが「マーフィー・ラボ」のシリーズです。だからこそ、今後も継続して再現できる。そういうプロジェクトです。音、ルックス、触感などがすごくヴィンテージっぽくなった。本当に凄い商品だと思います。


製品取材

では、この後は取材日の店頭で気になった製品をピックアップして紹介しよう。

なお、今回は、Heavy Agedと Ultra Heavy Agedが売り切れた後なので、掲載できない点をお許しいただきたい。

また、ライティングはウェザー・チェックを撮影するために、撮影時のライティングでハイライトを(意図的に強い光をあて、白くして)強調し、若干の露出補正をした(=作為的なコントラスト調整や色調の補正などの加工をしていない)。時期は違うが、撮影場所/撮影機材は「G-Club Tokyoに訊くGibson 最新入荷状況2020秋」と同じ(こちらはVOSの記事)なので、比較してご覧いただくのも良いだろう。

Ultra Light Aged

■Gibson Custom Murphy Lab 1959 Les Paul Standard  Ultra Light Aged
Southern Fade  価格=814,000円(税込)

最もエイジド加工を押さえたUltra Light Aged。薄いラッカーを使用し、褪色も少ないのが特徴だ。また、Light Aged以上とは異なり、打痕の再現などのダメージ加工はされていない。

▲正面から、本サイトで撮影する際の定番のカット&ライティングで撮影したカット。

※以下の写真は、ウェザー・チェックや塗装のくもりなどを誇張してライティングしています。

 

 

 

 

Light Aged (サンバースト系)

■Gibson Custom Murphy Lab 1958 Les Paul Standard Light Aged
Lemon Burst  価格=748,000円(税込)

ウェザー・チェックだけでなく、軽めのダメージ加工が施されているのが、Light Aged。このギターでは、右ひじが当たるエルボー部分に、やや強めの加工が加えられている他、数か所の大き目な打痕、注視すると判別できるシミのような小さなダメージもつけられている。バインディングもやや年季が入った雰囲気となる。

ヴィンテージでも58年製は褪色しやすいので、塗装は褪色したレモンバーストのカラーが組み合わされている。

▲正面から、本サイトで撮影する際の定番のカット&ライティングで撮影したカット。

※以下の写真は、ウェザー・チェックや塗装のくもりなどを誇張してライティングしています。

 

 

 

 

 

Light Aged (ゴールド・トップ)

■Gibson Custom Murphy Lab 1957 Les Paul Standard Light Aged
Double Gold / Darkback  価格=726,000円(税込)


▲正面から、本サイトで撮影する際の定番のカット&ライティングで撮影したカット。

※以下の写真は、ウェザー・チェックや塗装のくもりなどを誇張してライティングしています。



G-Club Tokyo

G-Club tokyoG-Club 東京は御茶ノ水、駿河台下の世界最大規模のギブソン・ギター専門店。

1階のギブソンUSA/エピフォン

2階のカスタム製ソリッド

3階のセミアコ/フルアコ

4階のアコースティック

とそれぞれのフロアに高い専門性ある在庫と知識豊富なスタッフが常駐しているのが特徴。

世界でもココにしかない在庫やヴィンテージ、リーズナブルな中古まで、ギブソンのファンなら訪れるたびに新しい発見ができる楽器店だ。

G-Club Tokyo

〒101-0052
東京都千代田区神田小川町3-8
Tel : 03-3295-2800
営業時間 : 11:00~20:00(年中無休)

公式ホームページ https://www.kurosawagakki.com/sh_g_club/

クロサワ楽器 G-CLUB TOKYO 【メインアカウント】 https://twitter.com/GCLUB_TOKYO

Interview & Photo / Masanori Morihiro (Guitar-Town)



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