連載 コラム

新生Gibsonの歩み 2018年から2020年のまとめ

ギブソンのレスポールはギターを好きな人なら、誰でも一度はゲットするギターだ。私もその一人だ。レスポール、特にレスポール・スタンダード系のモデルは、当たり前すぎる存在。そのせいで、マニアックな情報と楽器店のECサイトの販売情報の両極端になっており、まとめ的な情報が少ない。

そこで、今回、レスポールのプラクティカル・ガイドとして、ギタータウンではコラムを連載する。

2020年末時点でのギブソンブランド構成と工場体制

2018年5月、ギブソン社は米連邦破産法11条を申請した。これは日本では民事再生法に相当するもので、その申請後、経営再建がスタート。新体制が敷かれ、JCカーレイ(James "JC" Curleigh)氏がCEOに就任する。
彼はジーンズのリーバイスでの経営のプロとしての実績で知られると同時に、ギブソンのギターへの愛情も豊かで、自身のギターの原点は母が愛用していたというエピフォンという人物。我々、一般のギターフリークと変わらないマインドを持つ人物だ。

彼は2018年秋にCEOに就任し、早速、様々な改革に着手した。

その改革を、ざっと挙げると

1/ギブソンのブランドの再編

2/ESシリーズの工場をナッシュビルへ移転

3/ナッシュビル工場の設備を最新化

などとなる。

これは"製品の企画面での合理化"、"工場などの製造環境の整備"など大がかりな変更だ。

 

ギブソン内のブランドの再編

2020年12月時点で、ナッシュビルでソリッド/ESが作られており、量産されている通常品は「ギブソン」、特別生産の上級品は「ギブソン カスタム」。さらに、モンタナではアコースティック・ギターが作られ、それらも「ギブソン」のブランド名となる。

従来のように、生産工場などの区分ではなく、エレキもアコもブランド名は「ギブソン」。ハイクラスのエレキは「ギブソン カスタム」とシンプルになった。

ナッシュビル工場製のESシリーズ

ES-335などを製造していたメンフィス工場の閉鎖はかねてから噂されていたが、2019年春に実際に閉鎖された。そのためESシリーズはナッシュビル工場で作ることとになった。

言葉では簡単だが、工場が大規模であるだけなく、遠距離(約400km)への移転は困難が伴う。というのも、2つの工場の設備には違いがあり、製造工程も違う。さらに、熟練したスタッフの引越しなども考慮しなくてはならないからだ。

それらを2019年に順次解決し、2020年には日本にもナッシュビル工場で作られたES-335などが日本に入荷した。その実機を見ると、当初、メンフィス工場からナッシュビルへの移転で懸念されたクオリティの低下はなく、むしろ良質なギターに仕上がっている。新しいナッシュビルでの生産品の詳細はこちらの記事でご覧いただきたい。

ギタータウンでは2020年8月にG-Club Tokyoでナッシュビル製ES-335をレポートしています。併せてご覧ください。

 

ナッシュビル工場で作られた2020年製のES-335の内部。ラベルはGibson Customで、Nashvilleの文字が入っている。

 

ナッシュビル工場の最新化

ESシリーズの製造受け入れと同時(2019年)にナッシュビル工場では照明を入れ替えた。作業がしやすくなるのもあるが、ギブソンではサンバーストだけで数多くバリエーションがあるので、各色の色味などのクオリティは大切だ。専門的な話となるが、演色が良い照明器具、天井から手元までを照らせる明るい光量の両立となると単価も高い。大きな工場では高額の設備投資となる。

さらに、木くずや埃が舞いにくいように工程を見直した。それはスタッフや製造している品物が移動するルートを作る、いわゆる製造用導線の確保などだ。これらをESシリーズのナッシュビルでの移転タイミングで行っている。

これらはカタログスペックには現れない事柄だが、いずれも品質向上が見込める施策だ。すでに日本に最近入荷しているが、2020年に製造された製品を見ると、サンバースト、ゴールドトップなども言葉にはしづらいが、美しく仕上がっている。

 

マーフィー・ラボの設立

2019年秋に「マーフィー・ラボ」をナッシュビル工場内に作ったというニュースがギブソンのホームページに掲載された。マーフィーとは塗装技術で特に有名なトム・マーフィーのことだ。ニュースでは技術の継承ということが語られていた。

20年12月現在、Adam Jones 1979 Les Paul Custom、Jimi Hendrix 1967 SG Custom/Jimi Hendrix 1969 Flying Vなどでのエイジド加工はこのマーフィー・ラボが担当している。

レスポール・スタンダードなどは正確な採寸と復元がほぼ終わっているので、今年、60周年を迎えるSGをはじめとして、フライングV / エクスプローラやファイアーバードなどの復元にも期待したい。


2020年はアメリカはコロナ禍に見舞われている。JCカーレイCEOの改革も、そんな状況では当初の予定通りには進まないだろうが、届いた製品を見ると"オーセンティック"であろうとするスピリッツが伝わってくる。

記事 : 森廣真紀 (ギタータウン)

協力 : G-Club Tokyo

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