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エピフォンにとって「最高」のレスポールとその存在意味

エピフォンからギブソン・カスタムとコラボレーションしたEpiphone Limited Edition 1959 Les Paul Standardが発売された。ギタータウンではすでに「G-Club Tokyoに訊くGibson 最新入荷状況2020秋」の中で実機を取材しているが、日本のギブソンからニュースリリースが届いたので、本品だけをピックアップしてレビューしよう。

製品ニュース

Epiphone Limited Edition 1959 Les Paul Standard発売

 

(エイジド・ダーク・チェリー・バースト)

(エイジド・ダーク・バースト)

▲Epiphone Limited Edition 1959 Les Paul Standard
価格=108,000円(税別) ハードケース付

まず、本モデルの主なスペックを拾ってみた。

・マホガニー・ボディ
・AAAフィギュアド・メイプル・(合板)トップ
・1959ハンドロールド・ネック・プロファイル
・ロング・ネックテノン(=ディープ・ジョイント)
・エイジド・フィニッシュ(=本機ではサテン系のフィニッシュ)
・Gibson USA BurstBucker 2&3ピックアップ
・Switchcraft セレクター・スイッチとアウトプット・ジャック、CTSポット、50年代仕様のワイヤリング、Malloryコンデンサー
・ノン・べヴェルド・ピックガード
・エピフォン製デラックス・ヴィンテージ・チューナー
・ヴィンテージ風のブラウンのハードケース付属

となっている。

スペックとしては大変、立派な内容である。特にバーストバッカーの搭載とブラウンのハードケースは素晴らしい。ギターとしてのサウンドを決める要素としてピックアップが占める割合が高い。その部分にギブソンの中核的なピックアップのバーストバッカーを採用。さらに、ピックアップの信号経路の主要パーツは一流のものが使われている。また、ハードケースはエピフォンの上級機であるアーチスト・モデル級のケースをヴィンテージ風のブラウン・カラーにしている。

その代わり、ボディ関係はエピフォンの仕様ままなので、構造を含めギブソンとは比べるまでもない。ただし、サテンの薄い塗装なので、ボディの響きを遮りにくくなっている点とネックのシェイプがカスタムが監修した59年タイプに準拠している点は評価できる。これはエピフォンの価格帯でも出来ることやデータの供給など効果が期待できる工夫を盛り込むという姿勢だ。

名前には「1959」とあるが、歴史的な意味の59年モデルのレプリカ性は薄い。ただし、野球の「18」やサッカーの「10」の"エースナンバー"と同様、レスポールの「1959」が"最高"を意味する特別な数字だ。カスタムが持っているデータや特別なパーツを使い、エピフォンの限られた製品価格での最高を意味するならば、ふさわしい内容を持っている。

(部分写真は全てG-Club Tokyoでギタータウンが取材・撮影したものです。)

《SPEC》

[Body]
■Body Shape :Les Paul ■Body Material :Mahogany ■Top :Carved Hard Maple Cap with AAA Figured Maple Veneer ■Binding :Cream ■Finish :Aged
[Neck]
■Material :Mahogany ■Profile :'59 Rounded "C" ■Scale Length :24.76" / 629mm ■Fingerboard Material :Indian Laurel ■Fingerboard Radius :12" ■Number Of Frets :22 ■Frets :Medium Jumbo ■Nut Material :Graph Tech NuBone ■Nut Width :1.69" / 43mm ■Inlays :Trapezoid ■Joint :Glued in, Long Tenon
[Hardware]
■Finish :Nickel ■Bridge :Epiphone LockTone ABR-1 ■Tailpiece :Epiphone LockTone Stop Bar ■Tuning Machines :Epiphone Deluxe with Vintage Tulip Keys ■Pickguard :Cream ■TrussRod :Adjustable■Control Knobs :Gold Top Hat with dial pointers ■Control Covers :Black; PVC ■Strap Buttons :2 - bottom and shoulder ■Pickup Covers :Nickel
[Electronics]
■Neck Pickup :Gibson BurstBucker 2 ■Bridge Pickup :Gibson BurstBucker 3 ■Controls :2 Volume, 2 Tone, CTS pots, Mallory capacitors, 50s era wiring ■Pickup Selector :3-way Switchcraft toggle ■Output Jack :1/4" Switchcraft
[Miscellaneous]
■Strings :.010 .013 .017 .026 .036 .046 ■Case :Hardshell Case included ■Accessories :Included vintage-style hard case, Epiphone Limited Edition metal medallion toggle switch back plate


【製品ページ】

https://gibson.jp/electric/1959-les-paul-standard


コラム

「社内なのに、コラボレーション?」「59年がレプリカできてる?」と疑問に思う人もいるだろう。私もぎこちなく思いながらニュース記事を書いた。しかし、Epiphone Limited Edition 1959 Les Paul Standardは「すごく頑張った製品」だ。では、この製品の「なにがすごいのか?」、その誕生した背景とこの製品が将来果たすであろう役割について、コラムとしてまとめてみた。

異なるブランドから出されているレスポールの違い

レスポールは、ソリッド/アーチド・トップ、2ピックアップなどの特徴があるギブソンのエレクトリック・ギターだ。ギブソン社の中でレスポールを作っているのは最上位ブランドの「ギブソン・カスタム」と通常のレギュラー・ラインの「ギブソン」。共にテネシー州ナッシュビルの工場で、建物は同じだが、全く異なる製造ラインで作られている。これらはスペックで見ると文字の上での仕様はほぼ同じだが、使われている木材の杢目のランク、パーツ類のグレード、塗装・製作工程などが異なる。価格ではギブソン・カスタムは70万円、レギュラーでは30万円程度が目安だ。どちらも音はレスポールの音だ。音の違いは誰か別の人がレコーディングした曲を普通の音量で聴けば、簡単に区別が付かない範囲だろう。しかし、大きな音で鳴らすと弾いた本人は違いを感じることができる。また、ルックスやネックの触感などの質感は明らかに異なる。その区別がわかる人こそカスタム製を持つべきだ。

また、ギブソン社にはエピフォンという姉妹ブランドがある。エピフォンも歴史が大変古いブランドだが、60年代にギブソン社に買収され、現在は中国で作られている。エピフォン製品はレスポールやES-335などのギブソンのモデル名の、価格面では10万円程度の製品が多い。そもそもの価格が本家ギブソンの1/3程度、カスタムと比べると実に1/7程度に過ぎない。そのためエピフォンには仕上げの満足感などを期待する方がムリな相談だ。それでも、レスポールはレスポールの音、ES-335はES-335の音がする点では健闘している。

左から、Gibson Custom Historic Collection、Gibson Les paul Standard 50s 、Epiphone Ltd 1959。ギターは全てG-Club Tokyo、同日に同じ撮影セットで撮影した写真。

新生ギブソン社CEOの思惑

数年前までギブソン社はブランドごとに縦割りされ、その壁も高かった。ましてや会社さえ異なるエピフォンは蚊帳の外の存在だったと言える。しかし、ギブソンは一旦経営破たんした。その後、ギブソン再生のためJCカーレイ氏がCEOに就任した。彼はブランドの縦割りを低くする様々な改革を推進している。

特にJCカーレイ氏は、自身のギターの出会いについて、彼の母がギタリストで、母の愛機がエピフォンのアコースティックだったという。そのため、エピフォンへの思い入れが強く、また、ギターがあるところには笑顔が生まれ、人は穏やかになれるという意の発言をしている。ギブソンより低価格なエピフォンは、世界の市場に受け入れられやすいので、ワールドビジネスとして力を入れる対象だとも考えているようだ。

ブランドの垣根がなくなる今後への期待

すでにナッシュビルにあるギブソン社のヘッド・クォーター(本社)では、各地に散っていたスタッフが集結し、情報やノウハウ、パーツ類の共有が進んでいる。ブランドの縦割りの垣根が低くなってきている。

このEpiphone Limited Edition 1959 Les Paul Standardのプレスリリースには、"2年前のエピフォンのデザイン・ミーティングの際に出た「ギブソン・カスタムショップのヴィンテージなルックスを持ちながらも、入手しやすい価格帯のギターを作ることを目標にしたらどうだろうか」という発案がきっかけで誕生"したという文言があった。たった数行だが、これは、かつてでは考えられない内容だ。各ブランドが独自に開発したパーツはそのブランドの中でだけ、測定したデータやノウハウもブランド内だけで使われていた。デザイン・ミーティングがあり、ギブソンがエピフォンのことを話題にするなどは考えられなかった。実に"画期的な数行"だ。そして、リリースされた本品はエピフォンの限られた価格の中で最高のサウンドを生み出すレスポールを作ろうとする意図が強く感じられる。

このギターの誕生にはプレスの立場からも「よく頑張った!」という感銘しかない。

日本でも十年前のアニメ「けいおん!」で平沢唯がエピフォンのレスポールを持っていた。(これは原作者が単にレスポール好きだっただけで、タイアップの意図はなかった。)当時「けいおん!」を見ていた中学生が、今、20代半ばに成長し、メジャーレーベルからデビューしている。このギターでスタートした若者がステップアップし、十年後にカスタム製のレスポールを手にアリーナのステージに立っている、そんなストーリーも今は簡単に想像できる。



 

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