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ずっと試し続けて、途中でも完成形に見えるものは出来ますが「最終の完成形はない」と思って、楽器を作っています。Kino Factory木下 勇 インタビュー

2023年7月1日と2日に開催されたYokohama Music Style 2023には、長野県のKino Factoryもブースを出展していた。Kino Factoryはセミオーダーなどが中心のブランドでプレイヤーからの評判/評価が高く、オリジナリティもあるが、楽器店店頭ではレアな存在だ。今回はブースに数本のギター/ベースが展示されていた。それらについて最新情報とKino Factoryの代表である 木下 勇 氏のインタビューをお届けしよう。

▲Kino Factory 木下 勇 氏

 

Kino Factoryでは「何を変えたら、もっと良いものができるのだろう」と考えています。

まずKino Factory(キノファクトリー)の成り立ちについてお伺います。元々は長野の有名なギター製作工場に在籍されていたと聞いています。

この仕事をずっとやってこられたのは幸運でした。3つの会社で勤務した後に32歳で独立しました。独立した時点では色々なブランドのギターをOEMで製作していました。OEMではオーソドックスなギター/ベースになります。しかし、自分のブランドをやるとなると「オーソドックスな楽器を作るだけではおもしろくないな」と思いました。自分として「何を変えたら、もっと良いものができるのだろう」と考えました。これがブランドのコンセプトの根本にあります。だから、コピー品やすでにあるモノは自分が作る必要がないと思っています。

Kino Factoryのギターは小さめのボディ、丁寧な木工、金属パーツのオリジナリティなどの特徴を感じます。

僕は“後発のブランド”という意識を強く持っています。今も小さめのボディと言われましたが、サイズでは「小さくても豊かな音で鳴るというのはなぜだろう」などと考えます。ボディを小さくすると音の豊かさは損なわれる傾向があるはずです。そのため、適度なサイズだけでなく、ジョイント・ブロックやアンカー・ブロックにはオリジナルのパーツを使っています。

基本設計や使うパーツからから見直すことで小さいボディでもよく鳴る方法を採用したのですね?

そうですね。どこのメーカーでも手間をかけずに作ることは考えるはずです。その利点は製作しやすさでしょう。しかし、楽器の面白味は減ってしまいます。だからといって何でも手間をかければ良いとも思っていません。でも、手間をかけるべきところに手間をかけるべきと思っています。

今日は展示会なので、手間をかけた部分が一目でわかる箇所はありますか?

手間をかけた部分を一目でわかる必要はないんです。それよりも“弾いてみたらわかる”という部分が大事です。Kino Factoryのラインナップではトラディショナルな形のギターの方が弾いた時にわかりやすいかもしれませんね。

 

形を変えずに中身を変える方がお客様には受け入れられやすいと思っています。

ボディ材など木材での特徴はありますか?

木材は定番のギター用木材以外にも使ってみたいと思っています。自分も概念に縛られてしまうこともありますが、できるだけ縛られたくないと心がけています。それはボディに限らず、ネック材もです。特にネックには丈夫で硬めの木材を積極的に使ってみたいです。1ピースのネックでなくても、3ピースや5ピース構造などで、どういう組み合わせにしたら、より良くなるかなど。これはいつも研究しています。

僕はこのショーではネックに触って、ネックのグリップや触感などが優れているのを感じました。

ネックはとても重要です。しっかりしていること、耐久性があることは特に大切です。それをボディと組み合わせたらどういう音になるか、ということもあります。グリップなどでは、使いやすい形がある程度限られます。だから、その辺はバリエーションということになります。だから、色々な材料を組み合わせてきました。材料だけでなく、形もいろいろ試してバリエーションを作っています。

さきほどおっしゃっていたオリジナルのパーツ類について教えてください。

構造が簡単なパーツは専門業者にオーダーして作ってもらっています。これKino Factory製品の大きな特徴です。ペグとか複雑なパーツは既製品を使いますが、その場合も工夫をしています。Kino Factoryでは片側6連のペグ配置でも真っすぐに並べていません。これは6本の弦が個々にストレートになるように、ヘッドに対して出方を変えています。結果的にペグの配置は真っすぐにならなくなります。これによってロックナットがないギターでアーミングした時のチューニングの狂いやすさを一層防いでいます。

見た目では、全然わからない部分ですね。

それに加えて、エレキベースではテンションへのこだわりを持っています。私は、いつも「音が一番良くなるテンションってなんだろう」みたいなことを考えています。ベースの場合、適度なテンションが必要です。強すぎても、弱すぎてもダメですが、少し強めの方が良いです。ブリッジも無制限にのコストがかけられるなら新たに作りたいですが、ブリッジを(※1弦から4弦の平面の角度ではなく、各弦とボディに関わる立体的な角度を)斜めに取り付けることでテンションを稼ぐなどの工夫を採り入れています。

ベースのブリッジのマウントですか? 細かく見ているつもりですが、気が付きませんでした。

奇をてらうために形を変えるよりも、お客様には「形を変えずに中身を変える方が受け入れられる」と思っています。中身では、ボリュームとジャックを繋ぐ配線をサウンドスプライトさんに作ってもらっています。これはサウンドスプライトの大須賀さんがこよった特製の配線材です。この配線材で音が1段階か2段階明るい音が出せます。Kino Factoryでは“音が早く出る”、“音が抜ける”、“周波数帯が損なわれない”みたいなところを目指しています。もし、普通のストラトキャスターやレスポールに換装用のピックアップを乗せたら、出る音はだいたい想像できるはずです。でも、Kino Factoryのギターでは想像通りの出音になりません。それは金属パーツも配線材も違うからです。Kino Factoryのギターは元々輪郭が強くでやすいので、そこに輪郭が強く出る傾向のピックアップを乗せたら、より輪郭が強く・・いや、大変センシティブになってしまいます。ですから、ピックアップでも専用に作ってくれる人との仕事はしやすいです。サウンドスプライトさんをはじめ、いろいろなパーツを作ってもらっていますが、それらは自分ではできない部分を形にしてもらえる方々の協力はありがたいです。

 

“弦が鳴る”、“よりナチュラル”な音の出方がEVERTONE PICKUPの特徴

今、ピックアップの話が出たので、今回の展示品の目玉はEVERTONE PICKUPのピックアップ搭載モデルだと思います。まず、どんなピックアップかを教えてください。

僕がメインで開発したモノではないので、あまり詳しく話せませんが、レコーディングエンジニアの門垣さんが発案して、国際特許を申請しています。
普通のピックアップでは音が“点”で出るんですよ。でも、EVERTONE PICKUPには点だけでなく、“ふくらみ”もあるんですよね。形容すると音が「パン!」じゃなくて「プァン!!」って出る。数値では0.0何秒のふくらみが出ます。実は、アコースティック・ギターやエレクトリックでも弦のナマ音では、そういう音が出ているんです。従来のコイルのピックアップを通してしまうと“点”になってしまうのです。でも、みんなは“点”の音に慣れているから疑問を持たなかったんでしょうね。でも門垣さんはレコーディングエンジニアという職業柄、そこに疑問を持っていました。

レコーディングエンジニアの耳に聞こえる「ナマの弦が発する音のアタックを忠実に再現するピックアップ」ですか?

そうですね。ピックアップを通した時に音が変わるのは、現象として良いこともある半面、良くないこともあります。まずその現象の理論的なことから研究しました。そこからスタートして、実際にピックアップを製作したら、実現できた。音の出方として“弦が鳴る”、“よりナチュラル”な方に持っていきたい。それが一番の目的です。Kino Factoryの役目は、タイトな楽器を作って特性を見てもらうという立ち位置です。

たぶんプレイヤーが求める要素。例えば、音の追随性が良くて、速弾きでも立ち上がりが早。それに、普通に弾いている時も楽器の鳴りが良くなる効果などが期待できそうです。いずれアーチストたちが使うようになれば様々な効果が知られるのではないですか?

そうですね。すでにレコーディングの現場で100人以上のアーチストの楽器に載せ替えて、試してもらっています。なので来年ぐらいには大きな話題になっていると思います。

今回のショーで展示されているEVERTONE搭載モデルは?

ハムバッキング、シングル、TL、JM、JB、PB・・など。すでに主要なタイプは網羅できています。すでにピックアップの単体売りは始まっていますね。EVERTONEとしては「来年には世界を」と言っているので、私もお手伝いしています。

 

途中でも完成形に見えるものは出来ますが「最終の完成形はない」と思って、楽器を作っています。

Kino Factoryでは、楽器店店頭向けとお客様から直接オーダーされる楽器、どちらが多いですか?

もちろん、ホームページを通じて、お客様から直接のオーダーをいただけるのはありがたいです。でも、製作できる絶対数はあまり多くないので、楽器店店頭で試せる製品を増やしていきたいと思っています。今回の展示品は楽器店で販売されますので、店頭でKino Factoryの楽器をお試しいただきたいですね。

では、Kino Factoryのギターを店頭で見かけたら希少な機会として、ぜひ試してもらいたいですね。

 

最後になりますが、木下さんのギターづくりのポリシーをお訊きしたいと思います。

「楽器作りに終わりはない」と感じています。ずっと試し続けて、途中でも完成形に見えるものは出来ますが「最終の完成形はない」と思って、楽器を作っています。

今日は、ブース出展のお忙しい中、ありがとうございました。

 


Kino Factory ホームページ

https://kinofactory.jp/

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