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ヴィンテージ・エフェクターを愛し続けて Duesenberg 匠

Duesenbergというバンドがある。デューセンバーグは1975年頃にレッド・ツェッペリンのコピーバンドとして都内のライブハウスで活躍した。同時期に対バンしていたグループやミュージシャンはいずれも現在のレジェンドとなっているバンドばかり。しかし、デューセンバーグの場合、中心人物であるギタリストの匠(鈴木 匠)のソロ活動の活発化により、バンドは長い活動中止期間に入ってしまう。デューセンバーグは近年、その道で知られた新メンバーが結集して活動再開。そのライブはツェッペリンの曲とオリジナル曲の両方で好評を得ている。

今回、ギタータウンの「サウンドレシピ・フロム・ミュージシャン」では匠のエフェクターにスポットをあてた。というのも、彼がライブで往年の名エフェクターを現役で使っているからだ。しかも、それらはワンポイントではなく、いずれも長年に亘り主力として、である。 匠が、なぜヴィンテージ・エフェクターを使うのか?そして、その使い方を彼自身の演奏を動画を含めて明らかにしたい。

なお、今回ギターにフェンダー 1952年製エスクワイヤーを世田谷のWAREHOUSEよりお借りした。これは最高のコンディションをキープし、演奏に最適な調整が施されている。後のテレキャスターよりパワフルなPUを搭載したそのサウンドや弾き心地には匠も絶賛。また、アンプは茅ヶ崎LED HOUSEのコーネルのプレキシ7を内蔵アッテネーターで出力を落として使用。収録も同店店内で行った。

▲FENDER 1952年製 Esquire (from WAREHOUSE) & CORNELL Plexi 7 (from LED HOUSE)



 

【動画目次】

00:00 イントロダクション

00:18 Sora Sound Tone-Bender Mk.Ⅲ Late Model (Silicon)

01:40 ACETONE FUZZ MASTER FM-2

02:56 VOX Wah Pedal 60's Gray model (Del Casher Model?)

04:28 Shin-ei Resly Tone RT-18

が登場します。

COLOR SOUND Tone-Bender Mk.Ⅲ (Late Model)

60年代後半から70年代前半のブリティッシュ・ロックのサウンドに欠かせない歪み系のペダルがSORA SOUND / COLOR SOUNDTone-Benderだ。ゲイリー・ハーストが開発した回路が秀逸で、さまざまなロック・レジェンドのギタリストによって使用された。日本にはリアルタイムでは数が入っておらず、さらに、年代ごとに様々な筐体と回路、OEM先があるため、非常に紛らわしい。近年の研究がされており、今回紹介するトーンベンダーは70年代中期の(’74年頃?)に作られたと思われる。

・使われているトランジスタがゲルマニウムではなくシリコン。

・右のノブが「Tone」(Mk,Ⅲの前期は「Bass ~ Treble」)と表記されている

ことで、トーン・ベンダーでもMk.Ⅲの後期型と判断した。

つまり、ジミー・ペイジが1969年から70年にかけて使っていたトーン・ベンダーとは内部的に異なるモデルだ。

ACE TONE Fuzz Master FM-2

日本のACE TONEが作ったファズ・ペダル。FUZZ MASTERとしては3期あり、多機能化するにつれて型番が「FM-1」「FM-2」「FM-3」と異なる。

今回紹介するFM-2は現代流に言うと2モードになったファズで、Tone Selectorを踏むとアッパー・オクターバーを思わせるような金属的な歪みとなる。この度合をFUZZ ADJノブでコントロールできる。

日本のブランドによる日本製だったこともあり、グループサウンズなどではよく使われた。現代でもGSやサイケ系のバンドだけでなく、飛び道具として人気がある。

 

 

-匠さんは60年代から活動されていますが、これまでの歪み系エフェクターの遍歴を教えてください。

エース・トーンのファズ、FM-2は中学生の頃にリアルタイムに手に入れたものです。日本で作られたファズとしては一番最初の頃の機種だと思います。僕も最初はこれ(FM-2)とハニーのファズぐらいしか持っていませんでした。音はローリング・ストーンズのサティスファクションとかには似ているんですけど、ジェフ・ベックやジミー・ペイジが出しているトーンは全然違う音だったんですよ。「この(FM-2の)ファズの音じゃないよな」(笑)って。ずっと悩んでいました。

-当時は全然情報が少なかったですからね。しかも輸入品はとんでもなく高かったし。トーン・ベンダーとの出会いは?

ジミー・ペイジが使っているのはトーン・ベンダーだと知ってからは、日本中探しまわったんですけどありませんでした。珍しいエフェクターが楽器屋さんに入ったと聞いては、お店で色々試しました。その頃、VOXのを含めて3~4台買いましたね。でも、それらもFM-2に近い音で「全然違うなあ」と思いました。

ずっと時間が経ってですが、エフェクターをコレクションしている人から電話が掛かってきて、「ハニーのファズを持ってますよね? 僕のエフェクターと交換しませんか?」と持ち掛けられました。

その時、僕は「カラー・サウンドの音が聞きたい」と言うと、何台ものカラー・サウンドを持ってきてくれました。

「これらを全部お貸ししますから、この中から好きな奴を選んでください。それとハニーのファズを交換しましょうよ。」と言ってくれたんです。全部弾きまくって試しました。このトーンベンダーを弾いたところ、「これだ!俺が求めていた音だ」とわかってハニーのファズと交換しました。

-選び放題、弾き放題の中で実際に音を聞いて選んだ1台ですね。ファズって音が潰れがちだから、音作りに苦労しませんか?

僕のデモをお聴きになったらわかると思いますが、FM-2は歪みが極端です。家で一人で弾いている分には、それでも結構良い音だと思うんです。でも、いざバンドでやってみると、FM-2は(バンドの中で)沈んじゃうんです。それでも良い音を出したいと研究しました。

-うまく良い音を出せましたか?

まず音量がでかくないとダメなんですよ。音量を大きくするとトーンや歪みのコントロールの幅が広く効きますし、ファズの歪み具合も、つまみの一つ一つがものすごい意味を持ってくるんです。

-僕もファズを飛び道具としてしか使わないとしたら、もったいないと思います。

トーン・ベンダーの方がFM-2よりも音量で音も変わります。カラー・サウンドという名前の通りに、音の色が変わるみたいな感じ。それにトーン・ベンダーって名前もすごくイカしたネーミングじゃないですか。“音を捻じ曲げる”っていう。 カラー・サウンドはFM-2やハニーと違って、コードを弾いた時にちゃんとコードの音が出るんです。バンドの現場ではドラムやベースなど他のパートが入ったときに埋もれちゃうんですけど、そういう時にも音量が上げられるんで、ちゃんとした音を出すことができるんです。

-最近だとレプリカも出回っていますけど、匠さんは試したことがありますか?

レプリカの製作者にもお願いをしたことがあるんです。「音量を上げて使うから、ボリュームが7の場合、8の場合、9の場合、これでトーンのバリエーションを付けてほしい。それができるのがトーン・ベンダーだから」と。「レプリカするなら、それを付けてほしい」とお願いしたんです。でも、そうしたら、その人は「できない」と・・。

でも、それだとオリジナルのトーン・ベンダーの音にはならないんです。ですから、(ボリュームで音の違いを出せる)トーン・ベンダーは本当に素晴らしい。ファズはそれ自体が楽器だという人が居ますけど、ホントその通りだと思います。

 

VOX Wah Pedal Silver

VOXのワウというとクライ・ベイビー。V846やクライド・マッコイなどは有名で、製造時期や製造元などの違いで色々なクライ・ベイビーが混在している。今回は、60年代の後半に作られたシルバー(またはグレイ)のワウ・ペダルだ。

筐体には

・2か所VOXの文字が描かれている。

・バックパネルには「8067」とスタンプされている。

・このペダルは左のジャックがインプット、右がアウトプットとなっており、現代のエフェクターとは逆。

これらの特徴で検索したところ、V846などよりも前の年代に「デル・キャッシャー・モデル」として発売されたペダルのようだが、資料が少なく確証はない。

内部で使われているパーツが少ないため、それぞれのパーツが音を決める役割が大きい。この個体の場合、ノイズや音痩せも少なく、抵抗値が後年のクライ・ベイビーとは異なるようで、トーンフィルターとしても独特のサウンドを生み出す。

    -グレイというかシルバーというか、すごく珍しいワウですよね。

1970年にレッド・ツェッペリンが野外コンサート(Bath Festival Of Blues & Progressive Music)に出演しました。その写真を昔の雑誌で見たんですよ。そこには銀色のVOXのワウペダルが写っていました。 そのクライベイビーがすごく欲しくて日本中探し回ったんですよ。そしたら、ある楽器屋にあるという情報が入りまして、ようやく手に入れました。

-音の方はいかがでしたか?

普通のクライ・ベイビーだと、ただ“ワウ、ワウ”という言うだけなのに、これはものすごく音楽的な感じがします。本当にフレーズが湧き出てくるような気持ちいいサウンドです。 映画の『レット・イット・ビー』でビートルズが屋上でライブするシーンがあるじゃないですか。その時にジョージがこのクライ・ベイビーを使ってるんですよ。そのブートレッグなんかを聴いていても、クライ・ベイビーの音がすごく良いんですよ。このクライ・ベイビーを手に入れたら、「やっぱこのワウの音だ」って思ったわけですね。

-トーン・フィルターのようには使いますか?

使いますよ。一番踏み込んだ時の音と一番浅い時の音が他のワウとは違う。単にワウワウというだけではなくて、シンエイのレスリー・トーンと同じように立体的な感じがする。理由はわからないのですけど、僕はそう解釈しています。

 

SHIN-EI Resly Tone RT-18

日本の新映電気が作ったResly Tone RT-18。これはロータリー・スピーカーの効果を得るためのエフェクターだ。 元々、ロータリー・スピーカーとはハモンド・オルガン用のアンプ&スピーカーだ。開発者のドナルド・レスリーの名前から『レスリー・スピーカー』と言われることも多い。高音用ホーンが横回転し、低音用スピーカーにはローターを回転させるという方法で音にうねりを付けている。キーボード奏者たちが多用した他、ジェフ・ベックなどギタリストたちがプラグインしてレコーディングしたこともある。

RT-18は、このロータリー・スピーカーの効果をまねた電子オルガン向けのエフェクター。シンエイの製品というとジミ・ヘンドリックスが愛用したUni-Viveが有名で、RT-18は同社の系譜の中でユニ・ヴァイブの末裔にあたる。しかし、内部の回路、外装ともにユニ・ヴァイブとは別のエフェクターとなる。

パネル上に

・VOLUME

・VARIATION (・TREMOLO ・VIBRATO ・RESLYの3種類)

・INTENSITY

・REPEAT TIME (・1 ・1/2 ・1/4 ・1/6 ・1/8 ・1/12の6段階のスピード)

のノブが並んでおり、元々はオルガンの上に載せての操作を前提としている。

また、赤いインジケーターが動作スピードに合わせて点滅する

匠によるデモは ・「VARIATION」をRESLYで固定 ・「INTENSITY」は途中で深めに変更 ・「REPEAT TIME」は1で固定 というノブで演奏している。 デモではトーン・ベンダー、ワウの後にRT-18を接続。画面外のローランドのデジタルリバーブRRV-10を経由してギターアンプに接続。後半では、3つヴィンテージ・エフェクターを使ったジミ・ヘンドリックスさながら(!!)のビブラートを聴くことができる。

-これも珍しいですよね。しかも、現役で使っているギタリストを他には知りません。

70年代半ば頃、新宿の御苑スタジオでよくリハーサルをしていました。そこにはレスリー・スピーカーがあって、ギターでも使えるようになっていたんですね。ある日、それを使ったところ「この音はジョージ・ハリスンのあの音だ、(クリームの)バッヂのあの音だ」って。でも、あんな大きなスピーカーは買えないし、高いだろうなって。で、この音が出るエフェクターがあったらいいなって、すごく思っていました。

-ロータリー・スピーカーはオルガンでは定番でした。でも、でかいからリハスタであるのは珍しいですね。

ある時、楽器屋にこのレスリー・トーンがあり、弾いてみたら本当にレスリーみたいだなって思いました。その当時、高かったんですけど頑張って買いました。本物のレスリー・スピーカーは、実際にスピーカーが回転しているから、音の空間が変わる。だから、音のゆがむような感じがするんです。このレスリー・トーンは(モノラルなのに)ステレオのように空間が広がったような音に聞こえるんですね。

-たぶん、その頃にはギター用に作られた、さらにコンパクトなフェイザーもありましたよね?そちらには行かなかったのですか?

フェイザーとかは平面的な音に感じます。当時、マエストロの大きなフェイザーとかMXRからもフェイズ90とか色々出始めていたんです。コンパクトでもあの音が出せるとか言われていましたが、「なんかニュアンスが違う」と僕は思っていました。

僕もフェイザーやコーラスを使うことはあります。でも、それらではこの音は出せないんです。特に空間を広げるという意味ではレスリー・トーンは他にはない独特な音です。サイケデリックの時代に作られたエフェクターだからですかね。

-サイケデリック時代の、しかもシンエイの製品というとジミ・ヘンドリックスのユニ・ヴァイブが有名ですが、試したことは?

ユニ・ヴァイブを弾いたら「なんだ、俺のレスリートーンの音じゃん」って思いました。その時、裏を見たらSHIN-EIって書いてあって、その時、「ジミのも日本製だったんだ!」と知りました(笑)。この音は他のブランドでは絶対に出ない音だよね。

-最後の質問ですが、匠さんがこれらを何十年も愛用してきた理由を教えてください。

トーン・ベンダー、シルバーのVOXワウ、レスリー・トーン、この3つのエフェクターについていうと、音が“かっこいい”んですよ。かっこいいというと浅薄な言葉に聞こえますけど、僕が子供の頃に観たゴジラの映画で「ゴジラの啼き声がかっこいい」なって、それから自動車レースの爆音もかっこよく聞こえますよね。そういう音に共通した、かっこいい音がこの3つにはあるんじゃないかと。最近のエフェクターにはそういうかっこいい音を僕は感じません。


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