プレジャーボックス コラム

70'sのギタリストを魅了した日本のレガシー GRECO EGから

‘70年代に日本の若いギタリストの憧れだったグレコのEGシリーズ。一見すればレスポールのコピーを目指したシリーズだ。しかし、21世紀の視点で見ると、コピーといえるレベルになく、一聴してグレコとわかるほどサウンドも異なる。それでも当時の若いギタリストは胸を熱くした。その理由を店頭の商品から見てみよう。今回、取材したのは茅ヶ崎のLED HOUSEで見つけた70年代中期のGRECO EG-650Nと’78年製のEG-600Jだ。

 

違和感がある組み合わせの高級モデルGRECO EG-650N

▲GRECO EG-650N 価格=66,000円(税込み)

 

70年代の日本のギターブランドはどこもトラディショナルなモデルのコピーモデルを中心にラインナップしていた。そのラインナップの中で、高級感を演出しようとして、独自の観点から様々なギターの意匠をミックスしたのが今回、紹介するEG-650Nだ。

ネック メイプル指板、ブラックのポジション・マーク、バインディング

まず、目につくのはメイプルの指板だろう。ネック材こそマホガニーだが、指板にはメイプルが使われている。さらにポジション・マークは黒のブロック・ポジション。レスポールのアウトラインだと違和感があるが、おそらく、この辺の組み合わせは当時のジャズベースなどからインスパイアされた仕様ではないか?

 

ボディ パンケーキ・ボディにマホガニー・トップ、コンター加工がされたバック

薄いマホガニー材2枚を貼り合わせたボディは最近では“パンケーキ・ボディ”とも呼ばれる。トップにもマホガニーが使われている。バインディングも7層なので、この辺は当時のレスポール・カスタムの意匠を真似ているのだろう。同時期のギブソンでは高級機のレスポール・レコーディングがラインナップされており、トップのナチュラル仕上げとバックはコンター加工はレコーディングから来ているようだ。

 

ピックアップ セミ・オープンのU-1000ピックアップ

ピックアップは白と黒の2トーンのU-1000。写真のようにセミ・オープンという独特の仕様で、この個体ではカバー部分の塗装が落ちかけている。

 

ヘッド 通称“グネコ”ロゴと蔦のようなインレイ

ヘッド部の意匠は独特で、ロゴの“r”の上に○があるファンの間では“グネコ”と呼ばれる70年代中期のロゴ。中央部にはダイヤと植物の蔦のようなインレイが用いられている。

シリアルナンバーなどはなく、ポットデイトも無いため確認できないが、74-75年頃のモデルと思われる。

 

トラディショナルなブランドでは、細部の仕様に一定の法則があることが多い。例えば、ギブソンのカスタムというグレードはフルアコもソリッドもある。どちらもバインディングの層が7層、エボニー指板、ピックガードのプライ数などが同じだ。グレコはそもそも他社なので、他社の法則などは無関係だ。そのため、今では違和感がある組み合わせでもどんどん導入し、高級感を演出に利用している。現代の視点で見ると違和感だらけだが、そういう違和感をわかった上で楽しむのもこの時期の日本製ギターの楽しみ方といえるだろう。


ジェフ・ベックに憧れた日本のギタリストの夢をかなえる GRECO EG-600J

もう1本、茅ヶ崎のLED HOUSEで見つけたのはGRECO EG-600Jだ。このギターはOx -Bloodと愛称されているジェフ・ベック愛用の‘54年製レスポールを見よう見まねでコピーしようと試みたモデルだ。

▲GRECO EG-600J(ブリッジ換装品) 価格=SOLD

最初に注釈からとなるが、このギターのブリッジは別名“グレコ・バダス”などとも呼ばれるアジャスター(いもネジ)付の3点支持のものに交換されている。このブリッジは弦の張力でブリッジがPU側に傾からない仕組みになっている。

今でこそ、ジェフ・ベックが愛用した’54年製のレスポールは“Ox-Blood”の愛称が付けられ、“血”という意味からも、色は“赤みがある黒”である。ジェフはこのギターを『BB&A Live』などで使用。『BLOW BY BLOW』のジャケット・アートにも描かれている。

ボディ ダーク・グリーンに塗られたトップ&バック

当時の限られた資料を元にしたため、ボディのトップ/バックとネックを“ダーク・グリーン”に塗装したようだ。この頃はまだ楽器専門誌などが未発達で、カラー写真の掲載も少なかった時代。そのため、作リ手も限られた資料から想像を膨らませてグリーンと判断したようだ(黄色または緑色のライトが当たっていた写真を参考にしたとも言われる)。この塗装は非常に厚いポリ塗装。そのため、外見からは判別できないが、ネック材はメイプル。ボディもカタログではメイプル3ピーストップ、マホガニーのバックと表記されている。バックのプレートもピックガードと同じクリーム色の1ピースのものが使われている。これらの仕様はギブソンの’54年製に倣うのではなく、当時のグレコのEGに準拠し、ラージ・ハムバッキングPUのU-1000とワン・ブロックのブリッジ、特別カラーで塗装したモデルといえるだろう。

 

 

ネック 幅が狭いヘッドと日本人向けの細めのグリップ

今の感覚でEG-600JとOx-Bloodを比較すると、コピーできている要素があまりにも少ない。にもかかわらず、当時のカタログにEG-600Jには“ジェフ・ベック・モデル”という表記がされていた(当時は知的所有権などの認識があやふやだったようだ)。「ジェフ・ベックに少しでも近づきたい」と思う当時の若いギタリストの夢をかなえるべく、グレコがこのギターを企画したのだろう。取材した個体も大切に扱われつつ、実用性があるブリッジに換装されている。前オーナーもこのギターで成長し、たぶん一人前のギタリストになったに違いない・・などと想像した。80年代に入るとグレコもコピー路線を捨て、オリジナルモデル路線を進み、GOシリーズやブギー、ブローラーなどで一時代を築いている。

何年経過してもコピーモデルはコピーに過ぎず、楽器としての評価はされるべきではない。だが、日本のブランドにとっては製造ノウハウの蓄積、ギタリストにとっては上達の相棒として必要だったマイルストーン、歴史的遺産としての評価はできるだろう。

 


GRECO EG-650N

Plesure Box取材協力店 : Led House

 

価格=SOLD

 

 

GRECO EG-600J (ブリッジ交換品)

Plesure Box取材協力店 : Led House

 

価格=SOLD

 




 

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