『AL The Guitar Viking』というユーチューバーの海賊が世界のレブ・ビーチ界隈で大暴れしている。ギタータウンはふとしたきっかけで、海賊AL The Guitar Vikingと接触。彼が海賊になった理由、彼の目的などのインタビューに成功した。プロのミュージシャンではないのでギタータウンでは異色の存在だが、彼の楽器遍歴やYouTubeでの活動が興味深いので取材した。
AL The Guitar Vikingさんの音楽的なバックグラウンドを教えてください。
高校時代からハードロックやヘビーメタルが好きで、中でも、テクニカル系は特に好きですね。Winger、Mr.Big、Def Leppardなどの90年代のものです。その頃からバンド活動はしていましたが、社会人になると仕事が忙しく、ギターを弾く時間も少なくなりました。周りにも同好の人が減ってしまったので、ギターとは距離を置くようになってしまいました。
それがどうして“AL The Guitar Viking”というキャラクターに?
YouTuberとしてのAL The Guitar Vikingは、コロナ禍がきっかけで誕生しました。コロナが始まると、仕事も在宅勤務になっちゃったんです。それまでの生活サイクルは、会社に行って、家は寝るだけで、家でギターを弾く時間がほとんどありませんでした。でも、コロナでは巣ごもり生活が始まると、誰とも会わず家にいることが増えて「これは何かやらないとおかしくなるな」と思うようになりました。そんな時に、海外のYouTuberの動画を見て「自分も始めようかな?」と思ったんです。
元々、仕事がWEBデザイナーで、IT会社のプロデューサーやブランディングなど、外資系の会社を渡り歩いてきました。そこで、YouTubeを始める時には“ゆるく、長く続ける”手法を選びました。そして、“好きなことを題材にしなくてはならない”とも考えました。「自分は何が好きなんだろう」「強みはなんだろう」と考えて、「ギターは好きだよな」って思いました。
僕が最初AL The Guitar Vikingの動画を見た時に外国人だと思ったんですが、あの英語力はどこで?
幼い頃から、5か国ぐらい、色々な外国で生活していたんです。その頃は3~4年海外に居て、日本には1年いるみたいな生活をしていたんです。英語も僕の強みなので「日本発の情報で、英語を使った方が良いかな」と思いました。でも、家族にYouTubeを始めると言ったら「顔出しはやめてね」と言われたんです(笑)。
だから、キャラクターを作ろうと?
「やるなら、楽しいことをしよう」と思っていましたから“ギターを知る冒険に出る”ということをテーマにしました。でも、僕が日本に居るから“侍”や“忍者”というのは避けました。そこでAmazonで色々な仮装を探していたら“バイキング”の被り物を見つけたんです。これは安くて1500円ぐらいだったんですよ。コスチュームは色々なものを組み合わせています。その時点で『バイキングが日本に立ち寄って、いろいろ探検する』というコンセプトと『究極の快楽音を探す旅に出たバイキング』のキャッチフレーズもできたんです。そこから1か月ぐらいかけて企画書を書きました。内容は、“僕と同じような中年のギタリストが対象”、“自分と同じように、ギターの何か新しいことが知りたい人向けのチャンネル”などでした。
すでに数多くの動画がアップされていますが、どういう目的の動画でしょうか?
YouTubeには、例えばペダルの紹介動画は“こういう音がする”といったタイプが多いですが、僕は“どういう使い方で、どういうストーリーがあるか”を題材にしたいんです。だから、そういうストーリーなどを調べまくって、それを紹介する動画を作りました。
自分ができることの全て、それは英語やギター、それに、WEBデザインやクリエイティブ類、動画編集など・・それらのスキルを全部合わせて楽しいことをプロデュースしたい。それがスタート時点での目標でした。
実際にスタートして苦労した点などはありますか?
スタートからほぼ3年で約70本の動画を作りました。最初の頃は速いペースでアップしましたが、最近は自分のモチベーションが上がる時に作っています。動画を作るのって、結構、大変なんですよ。楽器なども自分が持っているもので動画を作りますが、それだけでは足りないので、友人からも借りたりして。
最近は、動画を自分のキャンバスのように考えています。チャンネルの見せ方も世界観を意識してます。ギターやペダルの紹介もするけど、ギターもキチッと弾いているよ、と。僕ができるプレイは早弾きとかレブ・ビーチみたいな演奏なんですが、“できるところを突き抜けてやりたい”と思っています。
YouTubeでの反応はどうですか?
最初は海外のアクセスが全然無かったんです。たぶんYouTubeの検索AIは“日本からの発信だから、日本人向けの動画だろう”と判断していたんでしょうね。でも、3か月ぐらい続けたところで、海外の人の目に触れるようになりました。今ではアメリカと南米。アジアではフィリピン、インドネシアなど、世界中で閲覧されています。中でも、YouTubeをやって良かったと思うことがあるんです。
それはどういう部分で?
YouTubeを始めたことで、レブ・ビーチのファン、特にレブ・ビーチ・モデルのコアなファンと友達になれたことです。これは日本だけでなく、世界中のファンと、です。
チャンネルのスタートがきっかけで、僕もレブ・ビーチ・モデルのギターを集めるようになりました。さらに、そのギターの演奏動画を載せたところ、レブ・ビーチ・モデルをデザインしたダン・ハブさんという方とも繋がることができました。ダンさんはWingerのロゴやファーストアルバムのジャケットをデザインした人物で、今もWingerのクリエイティブをやっている方です。ある日、ダンさんから、「その赤いギターはどうやって手に入れたんだ?」というメッセージをもらったんです。その時は一般の方だと思い「このギターを探しているの?」とか返事をしました。その返信では「そのギターをデザインしたのはオレなんだ!」とか(笑)、正体を明かしてくれました。
そうして、ダン・ハブさんにインタビューすることができました。Wingerのファーストアルバムは音だけでなく、いろんな部分がアーティスティックだったんです。僕も、そのアートがきっかけでグラフィック・デザインを志したんです。「今、その人と今は友だちになっちゃった!」。これは嬉しいエピソードです。
AL The Guitar Vikingというキャラクターの冒険が、リアルな自分の冒険にもなっているというわけですね?
そうそう。マンガの『ワンピース』などでも主人公は海賊で、彼も冒険をしますよね。冒険を続けると、仲間が増えて、さらに冒険を続けていくじゃないですか?AL The Guitar Vikingも同じです。ギターも音楽も、全体で見たらすぐ幅広いじゃないですか?テクニカル系でもスティーブ・ヴァイ、ジョー・サトリアーニ、ポール・ギルバートなどはファンも多いです。でも、自分のギターヒーロであるレブ・ビーチだけに限れば、それほどではないのかな?でも、これがきっかけで世界中のレブ・ビーチが好きな人たちと深い付き合いができるようになりました。
AL The Guitar VikingというYouTubeのキャラクターの誕生秘話が明らかになったところで、彼の冒険の成果でもあるギターたちを紹介しよう。今回はギタータウンの製品レビューではなく、彼がこれらを“捕獲”した経緯などのストーリーを中心にインタビュー形式でお送りしたい。
六絃 魁 Order made guitar
今では、六絃というギターブランドは知る人ぞ知るブランドみたいに言われるじゃないですか?このギターは僕が高校時代にオーダーメイドしたギターです。レブ・ビーチは好きですが、レブ・ビーチ・モデルを持ってるだけでWingerのをやったら真似っこみたいじゃないですか?それに、自分のギターをオーダーしたかったというのもあります。六絃の工房に行ったら「どういうギターを作りたい?」とか色々なリクエストを訊かれるんですよ。完成まで、半年ぐらいかかりました。こだわりの職人さんのようなメーカーでした。今も宝物にしています。
ボディはホンジュラス・マホガニーだと思います。トップはトラ目のソフトメイプルですね。ネックはメイプルのワンピース。このネックはこれまで一度も反ったことがなくて凄いです。ピックアップは、シングルサイズのハム、センターがシングル、リアにシングルサイズのハムとシングルなんです。コンセプトとしてはHSH、ストラトのようにSSSみたいなのもできるというものです。このギターは幅広い音楽に対応できて音もすごく良いのが気に入っています。
このギターは1993年の『楽器フェア』で、六絃のブースに展示されたんです。その時、向かいのブースがディマジオ社で、イングヴェイ・マルムスティーンが来たんです。その時、僕のギターをイングヴェイに見てもらったんです。「なんだこのグルーヴィーなギターは!」みたいなリアクションで、なかなか返してもらえませんでした(笑)。裏パネルのサインはその時に書いてもらったものです。
でも、最近、レブ・ビーチモデルを買い揃えて思うのは、レブ・ビーチみたいな音で弾きたいならレブ・ビーチ・モデルには敵いません(笑)。
Ibanez RBM400
アメリカのレブ・ビーチ・ギターコレクターのジャーミーとも友人関係なのですが、彼は日夜、レブ・ビーチ・モデルのネットでの出物をリサーチしているんです。ある時、彼が日本のオークションサイトにこのギターが出品されているのをみつけたんです。ほぼ新品の状況なのもあり、彼は僕に「このギターはお前が買え! このコをレスキューしろ! 捕獲するんだ!」と言うんです。僕は「ハワイアン・コアのモデルだったら買いたいけど、マホガニーのこれは・・・」。このギターは1993年頃に登場した比較的廉価なモデルで、日本製ですが、ボディ材がマホガニーで、ピックアップがEMGではない点が主な違いです。このギターでは出品前からEMGに交換されていたので、お買い得ではありました。それでも、しっかりとした値段だったので躊躇しました。すると友人は「なんなら後でハワイアン・コアのモデルが出た時に、その400をお前から俺が買い取ってやる!」とまで言われて、背中を押されました。「何を言っているんだ」とは思いましたけど、落札しました。
落札して、弾いてみると「やっぱりレブ・ビーチの音だな」と思いました。ところで、EMGって同じ型番のピックアップでも、昔のと今のでは音が違うんです。形状では、ハンダかソケットかの違いなんですが、ハンダ付けの方がレブ・ビーチの音になりやすくで良いです。大きな音で弾くと、太くて、きらびやかです。でも、このギターのEMGはソケットなんですけどね。
Ibanez WRB3
次に手に入れたのは、赤いWRB3です。インスタグラムにこのギターを載せている人を見つけました。「僕はこのWRB3が好きで・・」とメッセージを送り、交流が始まりました。その後も色々な交流が続きました。ある時、彼から「このギターを手放そうかと思っています。でも、譲るなら本当にレブ・ビーチが好きで、このギターを大切にしてくれる人に、と思っています。」という連絡がきたんです。しかも、大変良心的な値段でした。僕もこのギターを使ってYouTubeに動画をアップすれば、彼も今後もこのギターの音を楽しむことができます。こういうのもYouTubeをやっていたからこそ起きた話です。僕の動画は最低でも数百人の人が見てくれる。これは数万人とかでなくても良いんです。レブ・ビーチが好きな数百人ぐらいの人に届くだけでも、好きな人同士の交流が深まるから、です。
Ibanez RBM2NT
このギターは高校時代から欲しかった憧れのギターです。これも日本のオークションサイトで手に入れたギターです。ある夜、アメリカのジャーミーから夜中に電話で叩き起こされました(笑)。「おい、出たぞ!」って。RBM 2NTは、まず売りに出ない希少なギターなので、前もって買う準備してたので、迷わずゲットしました。
状態はすごく良かったです。ギターに限らず日本人はモノをすごく丁寧に使いますよね。このギターも金属パーツが曇っているぐらいで、変えられるものを交換するだけで、ほぼ新品のようなコンディションになりました。
このギターを使った最初の動画のテーマは映画『トップガン』にしました。ちょうど『マーヴェリック』がヒットしていました。僕はトップガンが大好きで、パイロットになりたかったぐらいなんです。曲もコピーしたんですが、動画では、ただ曲を完コピするのではなく、AL The Guitar Vikingが得意とするレブ・ビーチ式のタッピングを駆使してオリジナリティーを出しました。でも、他の人の動画を見ると、みんな室内で撮影しているんです。AL The Guitar Vikingとしては“戦闘機をバックにして、できればコクピットに入り込んで撮りたい”と思ったんです。それでF-18のシミュレーターが使える施設を見つけ、撮影許可をもらい、バイキングのコスチュームを着て撮影しました。他のカットでは、
Kz TL Trad 2H
Kz Guitar Worksさんは、僕の家の近くなんです。7年前ぐらいですが、六絃のギターのメンテナンスをお願いしたのがご縁の始まりです。僕がSNSにAL The Guitar Vikingとして動画製作を始めたことを投稿したら、2021年の年末ぐらいに、ケイズの伊集院さんからご連絡をいただきました。ギターの演奏動画は座っている動画が多いですけど、立って撮影したいなと思い、ドローンが好きなインド人の友人にも手伝ってもらいました。そうして作ったのがKz ST Tradの動画でした。この動画は、世界中で多くの人に見てもらえました。再生数は1万を超えました!
Kz TLはTLタイプの形をした別物ですよね。私みたいな早弾きプレイヤーにとってとても弾きやすくて、なおかつKzオリジナルハムの音も良かったです。また、オリジナルのネック・ジョイントのせいか、とてもよく鳴るギターなんです。ぜひ動画でチェックしてみてください!
AL The Guitar Vikingとしての今後の展望をお聞かせ下さい。
僕は自分のアート作品のように思って動画を作っています。チャンネルを通して僕が好きな90sのハードロックのギタープレイが好きな人と繋がりたいんです。YouTubeがきっかけで日本だけでなく、世界中のレブ・ビーチが好きな人と繋がることができたし、ケイズさんのようなメーカーとも繋がれました。アメリカのコアなファン、Wingerのファーストアルバムのデザイナーとか・・YouTubeチャンネルをやることで自分の世界が広がっていくんです。動画をやる前は、そういう人は近くにいなかったので、それが嬉しくて、エキサイティングです。
また、日本で日本人が思っている以上に、海外の人は、日本のことを知りたがっています。日本にもギターブランドがたくさんあるので、チャンネルを通してそういったブランドを海外に紹介するようなお手伝いもしたいですね。これまでは意図的に内容をレブ・ビーチに特化したので、お役に立てるほどのアクセスはありませんでした。でも、僕も大好きなことをしているので、楽しみながら続けられます。続ければ、きっと5年後ぐらいにはAL The Guitar Vikingのチャンネルは大きく育っていると信じています。 最後に動画でいつも言っている私が作ったフレーズがあります!OverDrive Your Life! 人生を思いっきり生きろ!という意味です! AL The Guitar Vikingと一緒に究極の快楽音を探す旅に出ましょう!