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CURIOUS INSTRUMENTS 砂押洋晶インタビュー

ギタータウンでは、Yokohama Music Style 2022でCURIOUS INSTRUMENTSのCharis(カリス)というギターと出会った。Charisは、アートなルックスが目を惹くが、細部を見ると非常によく考えられたギターであることがわかる。そこで、その製作者である砂押洋晶(すなおし・ひろあき)氏にCharisの製品レビューと砂押氏のインタビューを申し込んだ。

砂押氏は、キャリアがモノを言うギター製作の世界で、30代前半ながらかなりハイレベルな製作技術があり、ギターデザイン上で的を得た施策を盛り込んでいる。製品レビューとは別に砂押氏のこれまでのキャリア、Charisのポイント、今後のビジョンについて話を訊いた。

▲CURIOUS INSTRUMENTS 砂押 洋晶(すなおし・ひろあき)氏

最初の1本目を作った時から、もう楽しかったです。「これを自分の一生の仕事にできたら、すごいだろうな」って。

ギターとの出会いからお聞きしたいのですが。

中学の時に友達たちと学園祭で「バンドでもやろうか」という話になりまして。僕がギターをやることになりました。ただ、ギターも持っていなかったので、音楽の先生に相談したところ、「音楽室に、もう何十年も弾かれてないギターがあるよ。」と言われたんです。その時はギブソンのレスポールでした。めっちゃ重かったです。膝に乗せて練習したんですけど、重くて重くて。血管とか止まっちゃうのかなと思うぐらいに感じました。そこで両親に別のエレキギターを買ってもらいました。ミスターチルドレンや布袋さんも好きだったのが原体験です。

高校では軽音楽部に入りました。その頃になると進路について考えるようになりますが、最初は「普通の企業に就職して、普通の人生を」って考えてたんですけど、「流されて大学入って・・でいいんだろうか?」と思ったんです。そして、考えたところ「ギターに関わる仕事がしたい」と思い、その時、初めて「ギターを作ってる人もいるんだな」と気づいたんです。「よし!ギターを作る人になろう」と。子供の頃から手先がすごく器用でしたから。高校の顧問の先生からも奨められました。

ギター製作の専門学校に進学したんですよね?

はい。ESPアカデミーのギタークラフト科に進学しました。見学行ったら、すごい衝撃を受けました。それで入学を決定しました。入学して最初の1本目を作った時から、もう楽しかったです。「これを自分の一生の仕事にできたら、すごいだろうな」って。その頃には、ギターの製作1本でやっていこうと。

でも、卒業の年に東日本大震災があったんですよ。大手楽器店の内定も取り消しに・・そのタイミングでイシバシ楽器のリペアセンターのスタッフ募集を見つけて入社しました。最初の配属先はイシバシ・リペアセンターでした。しばらくして、地元の横浜店にリペアマンとして転勤になりました。だいたい横浜店には四年半ほどお世話になりました。漠然とですが、その頃には自分の人生のプランみたいなものを思い描いていたんです。最初が楽器店で、次はどこかのギターメーカーで、さらに製造技術を培って、独立をししたいと。

楽器メーカーにも在籍していたとも聞きましたが?

ご縁があったのはアトリエZさんに。ベースも著名なブランドでしたので、私も「ここで修行したい」と思いました。アーティスト向けの調整や出荷調整など全部の業務をやらせてもらいました。1年半ほどお世話になり、その間、本橋社長にはすごくかわいがってもらいました。先日のYokohama Music Style(以下、YMS)では隣のブースがアトリエZさんだったので、本橋社長に「本当にすごく感謝しています」って、お礼を申し上げることもできました。

独立したのはその後ですか?

家庭の事情などもあり、独立したいと色々な方に相談したところ、イシバシ楽器さんにも「じゃあ、うちの修理品も扱ってみる?」と言っていただけたので工房として独立しました。自宅のガレージを改装した修理工房です。それが5年ほど前のことですね。

今のCURIOUS INSTUMENTS というブランドのギターを作ろうと思うようになったのはいつごろですか?

コロナ禍で修理品の本数が減った時期があったんです。「自分のブランドでギターを出すなら今だ」と考えたんです。その時にYMSの運営の方からブース出展のお話をいただきました、出展品はプロトタイプばかりでしたがYMSに出展しました。

ギターの製作も自宅の工房でやってるんでしょうか?それも木工から?

はい、全部の自宅です。ガレージですが、ギター製作を全部完結できる設備があります。木工はCNCルーターを導入しました。今は個人でも導入できるCNCルーターもあります。

 

“Charis”(カリス)とはギリシャ神話の“美と優雅を司る女神たち”の総称です。

▲CURIOUS INSTRUMENT Charis Proto Type

このプロトタイプギターについて聞かせてください。

では、まず名前から。このギターは“Charis”(カリス)と名づけました。由来はギリシャ神話の“美と優雅を司る女神たち”の総称です。“女神たち”なので、今後、他の女神も登場するイメージです。名前は、すごく重要だと考えています。ブランド名の“CURIOUS”(キュリオス)もそうなんですが、Curiousは“好奇心”、“面白い”、“奇妙な”などの意味です。名前にも意味を持たせたいと思っています。

Charisはどんなコンセプトについて設計しましたか?

自分はエクスプローラーが大好きなんです。そこで第一のテーマは「自分のギターにもエクスプローラーのイメージを残したい」です。特にボディエンドですね。ここは絶対に残したい部分です。第二のテーマは「自分が弾いて一番気持ちいいものを作りたい」です。それは座った時にしっくりとくる快適さもあります。座って弾く時にはギターを右脚に乗せるますよね。そこをエクスプローラーに近い形にしました。ですが、エクスプローラーには弱点がありますよね? 右肘があたる部分が長すぎる点です。

肘がちょっと窮屈になっちゃう場所ですね。

はい。そこはエリック・クラプトンのエクスプローラーとSGからヒントをいただきました。まず右肘があたる部分を大胆にカットしました。SGからはベベルト・カット加工です。ベベルト・カットをボディトップ全体に入れつつ、さらに右肘の部分のカットを大きくカットしました。さらにカット部分にもデザイン性を加えました。次回以降の構想では、このベベルト部分だけ別の色に変えたら絶対いい感じになる、とも思っています。他にギルディングという箔加工があるのですが、金箔や銀箔をここだけに貼るっていうのもアイディアにあります。

 

“フルイドアート”には杢目が美しいなどだけじゃない、アートには大きな可能性を感じています。

使いやすさと美しさがポイントになっているんですね。

今回はボディ表面のアートな塗装はアーチストの“だーまつむつみ”さんにしてもらいました。だーまつむつみさんとは、別のイベントでお会いしました。むつみさん自身も芸術家であると同時にベーシストでもあり「今度ギターにアートをしてみたいんですよ」とお申し出をいただいたので実現しました。

これはどんな方法で製作していますか?

“フルイドアート”という種類の手法です。工程は、まずギターを寝かした状態で上から塗料を流します。そうすると上から下に、トップからベベルト部分に塗料が流れます。このギターでは、最初がグレーで、その上に黒と白とゴールドの塗料を流しました。さらに、その上に、金箔を乗せています。このカラーリングは“龍神”と名づけました。今後はこのようなアートなギターを月1本程度出したいと思っています。フルイドアートのギターって、1本ごとに模様が異なるって。世界で1本だけじゃないですか。このようにアートなギターで楽器業界にアプローチするのでも面白いと思っています。他のギターをアートなギターに改造をするオーダーもいただいています。杢目が美しいなどだけじゃない、アートには大きな可能性を感じています。

私は何をするのにも、なんとなくというのが嫌いで、何かの根拠が欲しいんです。

塗装の下の木材などのスペックも教えてください

ボディ材はバスウッドです。ネック材はフレイムメイプル。指板はエボニー材です。ナットは牛骨ナットを使っています。スケールは25インチ。最近は25インチ・スケールのギターも増えましたが、やはり弾きやすいと思うので。
今回はストラト風の要素も入れようと思いジョイントをボルトオンにしました。ただ、弾きやすさを重視して、ネックの仕込み角度を3度に設定しました。仕込み角3度はヴィンテージのレスポールを参考にした、弾きやすさへのこだわりポイントなんです。他にヘッドにアングルも付けましたから。この辺はストラト系とは違います。見えない部分ですが、トラスロッドにはチタン製の軽量のロッドを使っています。軽いと音が軽くなるのでは?と思う人もいるかもしれませんが、チタン素材の方がヘビーメタル向きの音になるようです。そこで、今回はトラスロッドとネック・プレートをチタン製にしました。実際に実験したのですが、音の波形を測定器で測ると、結果はスチール製よりも低音が少し出ていました。今後予定しているセットネック・モデルではプレートは不要ですが、トラスロッドは引き続きチタンにするつもりです。トラスロッドが軽いとヘッド落ちがしにくく、ボディのバランスもよくなりますので。

今回のブリッジはチューン・O・マチックですが、トレモロを付ける案は?

YMS2022のブースではご来場者から「フロイドローズを付けたら」とも言われました。ですが、トレモロブロックには金属の重さがあるし、ボディの木部も削らなくてはならないですよね。だから、自分が意図した重さにはならないんじゃないか?と思ったので、今回はチューン・O・マチックです。いずれトレモロの搭載は今後何本か作っていきながらかな、と。

ポジション・マークも珍しいですね。これは真鍮ですか?

はい。真鍮のパイプをカットして埋め込んでいます。パイプの“丸”の内側はレジンを固めて埋め込んでいます。サイドはルミンレイになっています。

フレットは?

ここは音質重視のつもりで、サンコーフレットのミディアムで背が高いものを使いました。こういったヘビーメタル系の見た目だとフレットもジャンボの方が良いという意見ももらっています。

ピックアップはオリジナルですよね?

弊社のオリジナル・ピックアップです。KARIYA PICKUPSさんに作ってもらいました。以前から、いくつもオーダーしていますが、どれも出来が良かったです。今回は「SH-4にローとミッドを足したようなイメージのサウンドで、六角のポールピースを使用してください」とオーダーしました。

ピックアップを取り付ける位置も研究しています。レオ・フェンダーがデザインしたギターの多くはハーモニックス・ポイントの真下にピックアップを配置されているんです。Charisでもハーモニックス・ポイントの真下にピックアップを取り付けました。ただ、真下だから必ずしも良いとは限らなくて、ずらした方が良いケースもあって、それはギターの面白いところですね。私は何をするのにも、なんとなくというのが嫌いで、何かの根拠が欲しいんです。だから、ピックアップの場所もそうしました。そのピックアップに自家製のカバーを使っています。

カバーは自家製ですか?

はい。3Dプリンターで作りました。でも、作ってみたらいろいろな問題がみつかってしまいまして(笑)。熱で平面が歪んでしまったり、と、耐久性で問題が出ました。3Dプリンターは試作には向いているんですけど、やはり金属で作った方が良い部分もありますね。

コントロール部は?

P.U.セレクターとマスター・ボリューム、マスター・トーンです。シンプルなので演奏時にストレスを感じにくいと思います。あと、コンデンサーはオレンジドロップ、配線はカナレの「L4E6S」という配線材を使っています。これはギターやマイク用のケーブルに使われている配線材ですが、それをバラして内部配線に使っています。これらはリペアを通じて、自分が良いと思うものを組み合わせました。他に、アース線などもケーブル用のアース線を使うと良いとか。ハンダ付けなどでもも色々とノウハウがあります。

最後になりますが、砂押さんの今後の事業面でのヴィジョンを教えてください?

当然、私の楽器がより多くの人に評価されて、プレイしてもらえることになることですね。また、個人工房としての活動では、修理だけではなく、アートギターなどへのカスタマイズを中心にしていきたいですね。他に市販品を元にして配線などをモディファイして販売することなども考えています。ギターデザインのカスタマイズもですが、ギタリストに1本を大切に使っていただけるようなギターを作りたい考えています。


【CURIOUS INSTUMENTS】
twitter:
https://twitter.com/@Curious_INST

mail:
info@curious-instruments.jp

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