6月に横浜の大さん橋ホールで開催された『Yokohama Music Style 』では、日本のギタークラフト界の大御所に混ざり、CURIOUS INSTUMENTS というブランドが出展していた。これは、このショーがデビューとなるギター・ブランドだ。ブースで展示されていたのもエレクトリック・ギター1本とミニベースが数本だけだったのだが、そのギターは特に目を惹いた。
それは
従来のマルチカラーとは異なる塗装
ブースでギターを構えると軽量で身体にフィットするバランス
細部を見ると独自の要素を多分に持っている
などの要素だ。
本記事はCharis Proto Typeの製品レビューと砂押洋晶(すなおし・ひろあき)氏のインタビューで構成する大型の記事だ。ギター製作者としては若く、製品もファースト・プロトタイプなので何かと不足している部分もある。しかし、私同様にこのブランドに興味を持ってくれた読者のために製品の魅力を紹介する製品レビューと砂押洋晶氏のプロフィールを紹介しよう。なお、取材した製品は完全にプロトタイプで、この個体は非売品だ。
CURIOUS INSTUMENTS Charis Proto Typeレビュー
▲ CURIOUS INSTUMENTS Charis Proto Type
Charis Proto Typeの“Charis”は「カリス」と読む。ギリシア神話に基づく名称だ。
ギターのデザインとしては
様々なシチュエーションでの演奏性を重視
曲面を基調とした美しいアウトライン
が特徴となる。
それに加えて、
アーチストの“だーまつむつみ”さんの“フルイド・アート”
で塗装されていることも特筆ポイントだ。
ウッド・マテリアル
ボディ材はバスウッド材を使用している。ボディのアウトラインは砂押氏が好きな“エクスプローラー”がモチーフとなっているという。ボディのネック側は1弦側が長いデザイン、ボディのエンド側は6弦側が大きいことに面影がある。アウトラインを曲面にし、ボディ厚も薄くした形状だ。その上、ボディエッジをSGなどに見られるベベルト加工を加えている。中でも右肘が触れるボディエンドの6弦側のベベルト加工は大きく、演奏しやすくしている。また、その部分は立体的に見えるようトップのラインとアウトラインを設計し、曲面を構成している。
ネック材はフレイム・メイプル材を使用し、指板材にはエボニーを使っている。ネック・ジョイントはボルトオンだ。これは今回のプロトタイプ独自の仕様で、次回はセットネック仕様を予定しているという。
正面のポジション・マークは真鍮のパイプを薄切りにしたものを使用し、円の内側はレジンを固めたものを使っている。
ヘッドはオリジナル形状で、ブランドロゴは3Dプリンターで製作されている。
あまり語られることがない部分だが 、Charisではボルトオンモデルながらネックの仕込み角度が3度に設定されている。これは砂押氏がリペア業務で得た知見を応用もので、ギブソンの現行レスポールの仕込み角度が4度、一部のヴィンテージは3度の設定となっているという。3度の方が弾きやすいと感じ、Charisにも導入した。
また、トラスロッドとネックプレートには軽量なチタン製のものを採用している。軽量なのでボディとのバランスが取りやすい他、サウンドも良好だった。これは測定器で従来品を比較したところ、低音がやや出やすいという結果に基づく。
ボディのカラーリング
ボディのカラーリングは本機のアイキャッチとなっている。これはアクセサリーなどの分野で活躍するアーチストの“だーまつむつみ”さんによる“フルイド・アート”を使った塗装である。フルイド・アートとは、素材の上から液状の塗料をたらすことで模様を作るアート手法だ。Charisでは、最初にグレーの下地を作り、黒と白、さらにゴールドの塗料をたらす。さらに、ピンポイントに金箔を乗せている。Charisではボディ外周のベベルト加工部分に意図的に塗料を流し、立体感も際立たせる効果を得ている。
なお、マルチカラー(水に油性塗料を使ったランダムな模様の被膜を作り、その被膜をギターに移しとる手法)と違って、フルイド・アートは、ある程度、模様はコントロールできるので柄は完全なランダムではない。かといって、完全な制御もできない。砂押氏は、このギターのカラーリングを“龍神”と名づけているように、意図的なテーマを表現しつつ、ランダム性も持ち合わせているので、オンリーワンとしての芸術的な価値が生まれる可能性もあると思う。
エレクトロニクス
ピックアップはKARIYA PICKUPS製のオリジナル品だ。これは「SH-4にローとミッドを足したようなイメージのサウンドで、六角のポールピースを使用してください」とオーダーしている。ピックアップ・カバーは樹脂素材だ。このカバーはプロトタイプ向けに3Dプリンターで作り出したもの。しかし、今年の酷暑の気温などで変形してしまうなどの問題が発生したため、今後は金属製などに変更することも考えているそうだ。
ピックアップを配置する位置もこだわっている。というのも、かつてレオ・フェンダーがデザインしたギターの多くはハーモニックス・ポイントの真下に配置されていた。必ずしも真下が良いとは限らないが、Charisではピックアップをハーモニックスの真下を選んで配置している。
コントロールはP.U.セレクターとマスター・ボリュームとマスター・トーンのシンプルな構成だ。内部配線のパーツは凝っている。というのも、Charisの配線材にカナレの「L4E6S」を使用している。これは元々ギター用ケーブルから取り出したものらしい。砂押氏は内部配線も様々に研究をしており、ベース用にはこの配線材、アースの取り方やハンダ付けの仕方などのノウハウを蓄積している。
【製品問い合わせ先】
twitter:
https://twitter.com/@Curious_INST
mail:
info@curious-instruments.jp