ジミ・ヘンドリックスの周辺には数多くのエンジニアが出入りし、彼の機材をカスタマイズしていた。そのため、彼のアンプもモディファイがされたという。現在、シアトルの“The Museum of Pop Culture”には、ヘンドリックスが使っていたアンプが収蔵されている。1969年製のMarshall Super Leadの100ワット・モデルだ。ポール・リード・スミス氏は収蔵されているアンプの内部を調査する機会を得た。そこでポール氏はPRSのアンプデザイナーであるダク・スウェル(Doug Sewell)氏を伴い、ヘンドリックスのアンプの解析にとりかかった。そのアンプも内部の回路やパーツなどが交換されており、通常製品とは異なるトランスなども使われていたようだ。
▲“The Museum of Pop Culture”収蔵のアンプ内部
ヘンドリックスのアンプの残すべき部分を残し、現代のギタリストが使いやすい仕様と安心して使えるパーツを使ったアンプ PRS HDRX
PRS社はアンプ・メーカーでもある。調査したアンプのレプリカを作ろうと思えば、作れるだろう。しかし、ポール氏はレプリカではなく、ヘンドリックスのアンプの残すべき部分を残し、現代のギタリストが使いやすい仕様と安心して使えるパーツを使ったアンプの開発という道を選んだ。そして、アンプ・デザイナーのダグ氏とともに、改善点を見つけては何度も作り直し、完成させたアンプがPRS HDRX 100 と HDRX 50である。
▲PRS HDRX 100 価格=600,000円(税別)
▲PRS HDRX 50 価格=580,000円(税別)
このアンプの外観はPlexi期のMarshall Super Leadとは完全に異なる。外装も現代的で放熱効率も高い。コントロール・パネル部分ではインプットは1つ。スイッチなども増設されている。HDRXはどの辺がヘンドリックスのアンプを出発点にしているのか、どの辺が現代的なのかを解説しよう。
▲「HDRX 50と2×12」(写真左)と「HDRX 100と4×12」(写真右)
内部構造 / ヘンドリックスのアンプを基に、現代のパーツをセレクト
HDRXの回路は、ヘンドリックスのカスタマイズ・アンプを元に設計されている。
■真空管
真空管は現代入手可能なものから選ばれ、パワー管にNew Sensor EL34EHをHDRX 100は4本、HDRX 50は2本。プリ管にはJJ ECC803Sを3本使用している。
▲HDRX 100のバックパネルから4本のEL34管と3本のECC803Sが見える。
真空管のマッチングは特にこだわった部分で、製造段階でのマッチングだけでなく、オーナーやエンジニアがバイアス調整しやすい仕組みも採用している。これは背面パネルにバイアスジャックとバイアス調整ノブを設置。シャーシを取り出さずにパワー管にかかっている電圧の数値(mV)の測定と調整ができる。
■出力トランスと電源回路
本機の出力トランスにはDEMETER WINDINGS社にPRSがオーダーしたStraight Edge出力トランスを搭載とている。このトランスにより、60年代後半に使われていたオリジナルのサウンドを再現しつつ、驚異的な低ノイズも実現している。
なお、HDRX50の電源回路は出力100Wと同じ電源を使用している。これにより、50Wの電源を使った通常の50Wアンプよりも、100Wアンプのニュアンスに近いサウンドとなる。
■シャーシと基板
HDRX内部のシャーシはアルミ製ではなく、ヴィンテージ・アンプと同様にスチール製シャーシを採用している。このシャーシは0.0060”厚のスチール製で、重めのパーツ類を支え、プロギタリストのツアーなどの酷使にも耐える耐久性も確保している。また、スチールには腐食を防ぐ処理が施されている。
内部基板には2オンス銅を使用した2mm厚の両面スルーホール基板を使用。オリジナル・アンプとの一貫性、グランドの落とし方、耐久性の向上を考慮し、独自のタグボード構造を採用している。
フロントパネル / 使い勝手を考え、豊富なサウンドを生む現代的なコントロール
フロントパネルは現代的なコントロールだ。
■インプットとトレブル/ベースの2つのボリューム
◇インプットとトレブル・ボリューム、ベース・ボリュームという2つのボリューム
インプットは“1つ”である。基となったヘンドリックスのアンプは、いわゆるPlexi期のもので、チャンネル1と2の4インプットであった。当時のギタリストたちは2つのチャンネルをケーブルでつなぎ、リンクさせながらサウンドメイクした。
HDRXはインプットは1つに簡略化されている。これは、外部でケーブル接続することなく、内部でトレブル・チャンネルとベース・チャンネルをブリッジ接続できるように改良されているからだ。コントロールは、トレブル・ボリュームとベース・ボリュームの独立した2つのボリュームをミックスする。2つのチャンネルを個別に調整できるので、全体のトーンから歪みまで、幅広く、かつ、より細かく設定することができる。
◇3-Way Bright Switch
上の写真で、2つのボリュームの中間に3-Wayスイッチが見える。これはoff/Bright 1/Bright 2のブライトスイッチだ。効果はBright 1では、通常のブライトスイッチの効果。Bright 2は、高音域をさらにブーストできる。これにより、小さな音量で使用する際にも高音域をしっかりと押し出したサウンドが得られる。
■トーン・コントロールとHigh-Mid Gain Switch
トーンのコントロール・ノブは、トレブル/ミドル/ベースの3コントロールで、この回路はプリアンプの後段に位置している。
ヘンドリックスは複数のアンプを使い分けていたようで、アンプ毎にコンデンサーが搭載されているアンプと搭載されていないがあることにPRSは着目した。コンデンサーの有無はゲインやボイシングの核ともいえるパーツだが、HDRXではコンデンサーを加えるか、否かをスイッチで切り替えられるようにした。それがミドルとトーンの間のHigh-Mid Gain Switchだ。このスイッチをオンにすると中音域がより強く押し出される。
■プレゼンス
プレゼンスのコントロールは回路上ではパワーアンプ・セクションに位置する。このノブを回すと、ハイ・ミッドとトレブルの帯域が持ち上がる。プリアンプ・セクションのトーン(3コントロール・ノブ)と2つのボリュームのセッティングに加え、プレゼンス・コントロールにより、音のボリューム感や硬さ、高音域の質感が変化。よりレンジの広いサウンドが得られる。
プレミアム・アンプの道しるべとなるHDRX
これらの仕様を見ると、ヘンドリックスが使ったSuper Leadではないし、半世紀以上前の電気部品も使われていない。つまり、ヴィンテージ・アンプのサウンドの面影を色濃く残しつつ、オーダーなども含めて、現代のパーツを使い、現代のギタリストが使いやすいように改良したアンプということがわかる。
HDRXは、50W/100Wという圧倒的なワット数を持つため、十分なヘッドルームを確保。小さな音量でもヴィンテージ・アンプのようなサウンドを出せる。そして、2つのボリュームのミックスとトーン・コントロールで、幅広い歪みを自由にサウンド・メイキングができる。
ポール・リード・スミス氏は、CustomやSilver Skyで、ヴィンテージ・ギターに敬意を払いつつ、改良を加えることで、プレミアム・ギターの道筋を作った。このHDRXでも同様にプレミアム・アンプの道しるべとなるに違いない。
《SPEC》
■Wattage
[HDRX 100] Wattage : 100
[HDRX 50] Wattage : 50
■FRONT PANEL CONTROLS
◇Channel 1 Controls
- Bass Volume with common Presence, Bass, Middle, Mid Gain (on/off), Treble, Lead Volume, Bright (Off, Bright 1, Bright 2)
◇Channel 2 Controls
- Lead Volume with common Presence, Bass, Middle, Mid Gain (on/off), Treble, Bright (Off, Bright 1, Bright 2), Bass Volume
■BACK PANEL FEATURES
Inlet : Fused Power Inlet (IEC)
Bias : Adjustable
Extension Speaker Jacks : 5
Ohm Switching : (2) 4 ohm, (2) 8 ohm, (1) 16 ohm
■TUBES
[HDRX 100]
Power Tubes : 4x New Sensor EL34EH
Preamp Tubes : 3x JJ ECC803S
Preamp Tubes : 3x JJ ECC803S
◇PREAMP TUBE POSITIONS & FUNCTIONS
V1 : Input
V2 : Cathode Follower
V3 : Phase Inverter
■MEASUREMENTS
Amp Width : 21.5" / Amp Depth : 10" /Amp Height : 10"
[HDRX 50] Amp Weight : 34.4 lbs
■HARDWARE
Covering : Black Tolex
Piping : Black
なお、マッチングキャビネットも同時発売される。
▲HDRX 2x12 Closed Back 価格=145,000円(税別)
▲HDRX 4x12 Closed Back 価格=195,000円(税別)
【製品問い合わせURL】
https://www.prsguitars.jp/hdrx
※製品の仕様、価格などは本記事作成時のものです。