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60年代にVOXが作ったディストーション&トレブルブースター内蔵フルアコベース VOX ASTRO IV BASS V273

VOXのベースについて

中目黒のギターショップ「ディア・プルーデンス」にVOX ASTRO IV BASS V273が入荷した 。イギリスの楽器メーカーであったVOXはアンプのAC30、ワウやファズなどのエフェクターで1960年代には世界を席巻したことで有名だが、当時からギターやベース、オルガンなどの楽器本体も発売している。ギターではローリングストーンズのブライアン・ジョーンズ、ベースではビル・ワイマンが使ったティアドロップ型が有名だ。VOXは独創的で多くの特許技術を持ち、60年代時点での最も革新的で本格的な楽器メーカーだ。いかに革新的だったかをメインに、今回はVOX ASTRO IV BASS V273をレビューしよう。

 

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VOXのベースといえばティアドロップ型(または洋梨型とも言われる)ベース「Wyman Bass」が有名だ。ビル・ワイマンはこのベースを1966年から68年頃のストーンズのツアーやレコーディングで使っていた。ワイマン・ベースはヘッドのロゴが“VOX”ではなく、“Bill Wyman”と記されている。仕様面では極細のネックは有名で、構造はシンプル。サウンドはウッドベースのようなアタックとファットさが特徴である。

今回のVOX ASTRO IV BASS V273は1967年と68年のカタログに登場するモデル。V273もビル・ワイマンが68年12月に収録された映画「ロックンロール・サーカス」のセッションで(ワイマン・ベースではなく、)V273を演奏している。

取材した個体はポットデートが66年なので、カタログ掲載当時の1本だ。コンディションは大変良い。ネックのそりや塗装の劣化などが少なく、ボディ・バックのカバーやカバー下の保護用プラスティックなども残っている。惜しむらくはトーン・ノブの文字部分が欠けている程度。製造はイタリア(のEKO)と思われ、半世紀以上前にイタリアで作られた楽器としては極上コンディションだ。

 

V273は際立つ特徴が数多いので、最初に列挙しておこう。
・ボディ幅13インチ、バイオリン型のフル・アコースティック構造
・5ピース・(7ピース)ネック
・Double Tアジャスト・ロッドを仕込んだ極細のネック
・Vox Ferro-Sonic Single-coil Bass Pickupを搭載した2V1Tのコントロール
Treble( / Bass) BoosterとDistortionをモジュールとして搭載
G Tunerを装備
などだ。

 

ボディ/ネックなどの基本構造

本機が発売された1967年はザ・ビートルズの人気が絶頂期であり、その影響を受けてヘフナーのバイオリン・ベースを参考にしたベースが色々なメーカーから登場した。V273もバイオリン型のアウトラインとフル・アコースティックという点では流行に乗った製品である。しかし、13インチ幅の大型ボディと60年代中期に流行した3トーン・サンバーストなので、ヘフナーのバイオリン・ベースとは印象が異なる。ボディは表面がメイプル材と思われる3プライの合板で、ブレイシングは独自デザインのようだ。また、バックには複雑な配線をするためのメンテナンス・ホールが設けられており、身体に触れる部分はカバーで保護されている。

VOX-astro4-v273▲ボディ・トップ正面

VOX-astro4-v273▲アーチ・トップ

トップはアーチ・トップで、“F”が2分割されたデザインのFホールがアイキャッチとなっている。

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▲2分割されたFホール

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▲ボディ・バック

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▲メンテナンス・ホール。円形のプラスティック・パーツは電池交換時のカバーにもなっている。写真上部の切れ込み部分が切れやすいので、現存しているのは珍しい。

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▲3プライの合板を使ったトップ。なお、バックも同素材の合板のようだ。

 

ネックはメイプルがメインの5ピースとヘッド両サイドを合わせると7ピースで作られている。指板はローズウッド系の木材だ。ヘッドは巨大で、「VOX」文字の立体ロゴがアイキャッチとなっている。ネックは非常にスリムだ。特にナットからジョイントまでの幅が変わらないのはDouble Tアジャスト・ロッドによる効果だろう。このDouble Tアジャスト・ロッドは、アルファベットの「T」を2つ並べた下駄のような「TT」形状の金属パーツを使ったアジャスト・ロッドで、当時、特許を取得している。ロッドはボディ側から調整する。現代の視点で観ると、ネック調整用のアジャスト・ロッドというより金属によるネック補強効果の方が主な効果のように思える。この個体はこの細さながら、半世紀を経てもソリが少ない。このネックはボディにボルトオン方式でジョイントされている。

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▲巨大なヘッド。VOXの文字は立体でエンブレム風ロゴだ。

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▲金属製のナットと0フレット。幅が非常に狭いネック・グリップ。

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▲ネックはメイプルがメインの5ピースで、巨大なヘッド部分は別の木材を足して貼り合わせた合計7ピース構造となる。

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▲Double Tアジャスト・ロッドのコントロール部

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▲Double Tアジャスト・ロッドにより12フレット付近でも、狭い指板幅を実現。この個体は半世紀以上経った今でも、そりなどが少ない。

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▲ボルトオン方式によるネック・ジョイント。高級モデルらしく、ネックプレートの造形が豪華。

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なお、ボディ/ネックなどのベースとしての製造はイタリアのEKOが担当したようだ。

 

ハードウェア類

V273は当時の最高級モデルであり、クルーソン製と思われるチューナーを使用している他、金型などが必要なオリジナル・パーツを多数使用している。

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ブリッジは金属パーツがジャズマスターのような形状のオリジナル品で、それをローズウッドと思われる木製の台座に載せている。

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▲ブリッジ。木製の台座に載せている。

テイルピースは、金属の質量が大きく、表面処理が美しいオリジナル品。ブリッジの下には、黒と金の金属を使った「VOX」ロゴが入ったプレートを使用している。アンプのAC30などを彷彿させる誇らしげなパーツだ。

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▲VOXアンプのイメージを踏襲したようなテイルピース。

コントロール・ノブはホワイト・バックのノブを使用、ピックガードもオリジナル・デザインだ。

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エレクトロニクス

◇ピックアップと基本コントロール
ピックアップはVox Ferro-Sonic Single-coil Bass Pickupを2基搭載。3ウエイのトグルスイッチによるセレクター。1ボリューム、2トーンでコントロールする。V273も普通に弾く分にはウッドベースのような響きで、特にフル・アコースティックなのでナチュラルなアコースティック感だ。なお、本機はトーンの効きがよくない。しかし、色々試してみたが、そういう仕様のようだ。

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◇先進的なモジュール型エフェクター
このベースに注目した理由はTreble BoosterとDistortionをモジュールとして、さらに、G Tunerも搭載しているからだ。VOXは、AC30などのアンプ・ブランドとして現在でも有名だが、ペダル・エフェクターとして60年代にはイノベーティブな製品を多数リリースしていた。現在に続くワウ・ペダルはもちろんのこと、トレブルブースターやファズなども数多い。

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V273はトレブルブースターとディストーションを“モジュール”として搭載している。V273では、ボディ外周にボリュームとトーンを配置し、内蔵した2つのエフェクターは金属プレートに配置されているノブでコントロールするスタイル。当時のメンテナンス・ガイドを見ると“Module”の文字も記されている。単にエフェクター類を内蔵するだけならば、他に例があったかもしれないが、モジュールとして考えていたのは画期的だ。メンテナンス・ガイドでは、ギターの配線とエフェクター関係の配線は独立しており、それぞれをボディ側のコネクターと接続する。つまり、金属プレートと内部エフェクター・パーツをユニットで組込んで接続、故障の際には別のユニットに交換できる。当時のメンテナンス・ガイドに記載があるので、故障対策までは史実だ。加えて、別のエフェクターと交換できる構造でもある。楽器本体にエフェクターを内蔵し、それを換装できる・・Moduleという語句にはそんな夢想もできる。

もうひとつ画期的な点がある。機能はファズだが、後に単体のエフェクターの総称ともなるDistortionという語句が使われたのも、V273が最初のように思う。

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◇トレブルブースター
トレブルブースターは、スライド・スイッチのオン/オフと1つのコントロール・ノブでコントロールする。この時代のトレブルブースターは、単に“トレブルをブーストするのではない”。(個々の製品によって異なるが)特定の周波数帯をブースト/カットすることが多いようだ。V273の場合、コントロール・パネル上の文字が「TREBLE / BASS BOOSTER」、ノブには「TR-B Boost」と記されている。ノブを回すとトレブリーになる位置、ファットになる位置などがある。しかし、トレブルブースターだけを単体使用した場合にはそれほど効果を感じない。

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◇ディストーション
ディストーションも、スライド・スイッチのオン/オフと1つのコントロール・ノブでコントロールする。名前と違い、歪み方はファズそのものだ。VOXのファズはTone Benderが有名。しかし、V273搭載のトランジスタにはシリコン・トランジスタ「BC 108」を使っている。BC108はダラスのFAZZ FACEで知られるパーツ。当時のVOX Tone Benderとは異なる種類の歪みと言ってよいだろう。心臓部が異なるので、根本的に音はTone Benderとは違うと思う。

スイッチをオンにした時点で、強烈に歪み、音痩せは意外なほど少ない。しかし、ノイズ対策が貧弱で、一体型なのでプレイヤー側では何も対策ができない。コンセプトと時代性を考えると、そういう楽器として捉える以外になさそうだ。

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◇両方を併用した際のサウンド
両方オフではウッドベースのような和やかなサウンドだが、ディストーションとトレブルブースターの2つを併用すると凶悪と言えるレベルのサウンドを生み出す。強い歪みに加え、トレブルブースターのノブによる音の変化で、ノイジーなプレイも極太の唸るようなプレイもできる。現代のヘビーとは異なるエッジの鋭さがある。当時のバンドシーンではギタリストのお株を奪うようなプレイが出来たと思う。

 

◇G Tunerを搭載

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V273には、G Tunerというチューナー機能がある。オンにすると“G音”に設定された発振機が発振する。これはベースのボリュームを下げると発振している音がアンプから出る非常に原始的な構造。A音の方が使い勝手は良さそうだが、なぜかG音である。(おそらく1弦の開放音か12フレットのハーモニックス音でチューニングしたのだろう。)今のようなチューナーが登場するのは70年代中期。チューナーをベースに内蔵するという発想は世界初だろう。この辺は当時のVOXの電気技術への自信を感じる。

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▲当時のケースが付属。ケースのハンドルはVOXのアンプのような格子状のデザインで、本品はハンドルの劣化も少ない。ただし、ケース外装のVOXロゴは欠損している。


VOX-astro4-v273VOX ASTRO IV BASS V273 1960's

W/Original Case

 

Bookmark協力店 : Dear Prudence

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取材時(2021年11月)の価格 : ASK


取材協力店

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“Dear Prudence”

ディア・プルーデンスは、海外からの仕入れたアイテムに強いヴィンテージ・ギター&アンプの専門店。フェンダー、ギブソンだけでなく、リッケンバッカー、グレッチ、ヘフナー、VOXなど、店名の由来となっているビートルズ関係のギターは特に豊富。それに加えて、アンプやエフェクターもヴィンテージ品を中心に取り扱っている。

商品はコレクション向けだけでなく、プレイヤーズ・コンディション品やトリビュート・バンド御用達のモディファイ品まで様々。気になるギターがあれば問い合わせてみよう。


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