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コンペティション期の3頭の荒馬 69年Mustang

"荒馬"を意味するフェンダーのムスタング。アクティブなイメージを前面に打ち出したエレクトリック・ギターとして1964年に登場した。ギタータウンでは「カラフルでかっこいいFender Mustang 3本」の中でムスタングの初期型を掲載しているので、まずそちらをご覧いただきたい。その記事の続編として今回は1969年にモデルチェンジした3本をピックアップした。幸運にも10月上旬に厚木のギタートレーダーズで69年製3本と末期の78年が揃い踏みしていたのをキャッチ。最初にまず仕入れにもこだわりがある同店にはお礼を申し上げたい。

 

そもそもムスタングとはどんなギター?

フェンダーのエレクトリック・ギター“Mustang”は64年に登場した。価格帯としてはジャガーやジャズマスター、ストラトキャスターよりも手ごろな価格。デュオソニックなどのスモール・ボディのギターの中では最上位という位置付けだ。微妙なポジションだが、ムスタングには他のギターにはない魅力が与えられている。

▲初期型67年製Mustang White

搭載した2つのシングル・コイルPUをスライド・スイッチでオン/オフできる。その際、PUをミックスした時にはフェイズアウトする組み合わせにもなる仕組みだ。その音はカッティングの際に軽快なサウンドを生み出す。

ダイナミック・ビブラートは大胆な音程変化をスムースに生み出すユニットだ。

この2つの要素は60年代中期という時代性を考えると大変画期的な機能で、上位機種にも採用されなかったムスタングだけの特徴だ。

また、スケールは短めの24インチである点もムスタングを語る上での性能と言える。

詳しくはカラフルでかっこいいFender Mustang 3本をご覧いただきたい。

 

69年に若者をターゲットに再アレンジ

"Mustang"というネーミングは、自動車メーカーのフォードから同名の車が同時期に発売されており、全く同じだ。同じ“Mustang"の綴りだが、日本では車を「マスタング」と発音する。車のファンの方ならご存知と思うが、マスタングはアメリカ車の中でも、スポーツ・カーの代表格、当時のベストセラーにしてロングセラーになった名車だ。60年代はアメリカ経済が上り調子で、若者も文化を謳歌していた時代。車も音楽も若者の動向や文化を抜きにしては成り立たなかった。さらに、マスタングに限らず、レーシング・カーやスポーツ・カーで流行したペイントがある。それは車のボンネットからトランク(レースカーならエンジン付近)まで、ボディ全体に帯状の幅広いラインを入れる塗装だ。このラインを「コンペティション・ライン」と呼んだ。ギターの「ムスタング」でも69年にモデルチェンジした際に、ボディに白い2本の帯状のラインを取り入れる。これも車と同様に「コンペティション・ライン」と言われている。

ムスタングでは、それまで「ホワイト」「ブルー」「レッド」の3色だったが、69年には「コンペティション・バーガンディ」「コンペティション・レッド」「コンペティション・オレンジ」の3色に変更された。これらは他の青や赤と異なるだけでなく、ボディの片側には白いコンペティション・ラインをアクセントとして加えている。コンペティション・ラインはムスタングだけの特別な装飾でもあった。

ボディカラーとラインのカラーはそれぞれ

コンペティション・バーガンディ=ライトブルー
コンペティション・レッド=ホワイト
コンペティション・オレンジ=レッド

という組み合わせになっている。

 

コンター加工されたボディとマッチング・ヘッド

69年のモデルチェンジでは、ボディ・トップとバックにコンター加工が施された。正面からはあまり目立たないが、バックから見るとそぎ落とされた量は多い。サイドからはかなり精悍な曲面に見えるだろう。

ムスタングも66年にストラトキャスターと同じサイズのラージヘッド化されている(注/初期型を含め、ギタータウン掲載の6本は全てラージヘッド)。69年時点ではヘッド・ロゴも"Mustag"のデカールがホワイトに変更され、69年と70年に作られたモデルは、ボディとヘッドが同色のマッチングヘッドとなっている。

チューナーはフェンダーが自社で製作した"fキー"と呼ばれるチューナーで、ボタン形状がやや角張っており、ムスタングではプラスティック製である(オレンジのみクルーソン製が装着されている)。

 

ヴィンテージのみ持つ風格がある 69年製 コンペティション・バーガンディ

▲1969年 Mustang (Competition Burgundy)

コンペティション・バーガンディは、それまでのブルーから置き替えられたムスタング専用のメタリック・ブルー。様々なギタリストの使用でアメリカではこの色の人気が高い。元々は、メタリック・ブルーの地色と周辺に赤のサンバーストがあるという微妙な色彩が特徴のカラーが特徴だった。ただし、この赤の部分は色抜けやすく、半世紀を経た現在では、赤の要素を残す個体は少ない。このギターでは経年変化によるコート成分の黄変で、このギターは緑がかった青に変化している。


 

Fender

1969 Mustang (Competition Burgundy)

Bookmark協力店 : Guitar Traders

http://www.guitartraders.com/

Sold

 

永久保存モノのコンディション 69年 コンペティション・レッド

▲1969年 Mustang (Competition Red)

60年代のフェンダーのメタリック系の赤はキャンディ・アップル・レッドが有名だが、このコンペティション・レッドの赤は別の色合い。ややあっさりしたメタリックと軽快な赤が特徴。ムスタングには乱暴に扱われる個体も多い中、このギターはコンディションが極めて高い。よく見るとボディには自然に発生した細かいウェザーチェックがある。これは人為的に加工されたレリックとは別物で、むしろ本物の証明と言える。ヴィンテージとしては手ごろ価格なので、ヴィンテージの入り口としても最適な1本だ。

 

 

Fender

1969 Mustang (Competition Red)

Bookmark協力店 : Guitar Traders

http://www.guitartraders.com/

取材時(2020年10月)の価格 : 価格=270,000円(税別 / 税込298,000円)

コンペ期の目玉カラーともいえる 69年製 コンペティション・オレンジ

▲1969 Mustang Competition Orange

コンペティション・オレンジは69年から72年まで生産された。推測だが、レースカーなどの人気カラーが元となっていたのか、当時のフェンダーでこの色は他に採用がなく、唐突に登場してきた。そのため個体数が少ない。さらに日本でも漫画『Beck』に登場する人気カラーだ。その結果、今回紹介したこのギターのようにコンディションが良い個体は価格も高値になる。オレンジと赤のラインの塗装の劣化も少ない、その上、約3.16kgと軽量だ。

 

 

Fender

1969 Mustang (Competition Orange)

Bookmark協力店 : Guitar Traders

http://www.guitartraders.com/

取材時(2020年10月)の価格 : 価格=450,000円(税別 / 税込495,000円)

 

その後のムスタング

ムスタングにコンペティション・ラインが入っていたのは69年から74年までだ。元々の価格設定が微妙なポジションだった上に、70年代の初期は安価な日本製のギターがアメリカの楽器市場を席巻しはじめていた時期。ムスタングもボディ材をアッシュに変更。杢目が見えるナチュラル、下記のホワイトなど各種のテコ入れがされるが、奮闘空しく82年にはムスタングはカタログから消え、替わってLEADシリーズが登場した。

洗練されたカラーリングと現代的仕様 78年製 ホワイト

▲1978 Mustang (White)

ボディ材にアッシュを使用していた70年代後半のムスタング。他にもドットの素材、チューナーのボタン、ネック・プレート、ストリング・リテイナーなど、細部がグレードアップまたは近代的に変更されている。これらにより、楽器の完成度は向上している。また、この時期はムスタングだけでなくSTやTLもホワイトには黒のピックガードがマッチングされていた。本機もやや黄変しているが、40年以上の経年変化が良い方向に出ている。ボリューム・ポットとノブが交換されているらしい。楽器としての完成度は高いが、価格が割安で買える手軽さも魅力だ。

 

Fender

1978 Mustang (White)

Bookmark協力店 : Guitar Traders

http://www.guitartraders.com/

取材時(2020年10月)の価格 : 価格=135,000円(税別 / 税込148,500円)


ギタータウンのコメント

アメリカのフェンダーがムスタングの生産が終えた後、日本のフェンダー・ジャパンがムスタングを復活させた。また、Charが愛用し、アニメ「けいおん!」や「Beck」などにも登場するギターとして特に日本では人気が高い。レオ・フェンダーがギターをミュージシャンに"羽根"として与えたという話が、どこからか言われはじめているが、レオがムスタングという馬にだけ与えた"羽根"は、スライドスイッチとダイナミック・ビブラートだ。この2つの要素を持っているからこそ「荒馬 "Mustang"」と言える。アーム付きデュオ・ソニックにはならなかった孤高の荒馬だ。


取材協力店

神奈川・本厚木のギターショップ

“Guitar Traders”

2019年でオープンから20周年を迎えたヴィンテージ・ギター専門店。常時300本以上のギターを在庫しており、名品と言われるヴィンテージ・ギターだけでなく、リーズナブルなアメリカン・ギターや国産中古ギターまでラインナップも豊富。そして、それらは丁寧にセットアップされた状態で店頭に出されている。

加えて、広々とした店内は大型試奏室も完備。様々なアンプと組み合わせて試奏もできる。代官山のGuitar Traders Tokyoだけでなく、ぜひ足を運びたいギターショップだ。


Guitar Traders

http://www.guitartraders.com/

〒243-0014
神奈川県厚木市旭町1-22-20 ハラダ旭町ビル3F
TEL:046-220-0377/FAX:046-220-0355
Mail:g.trader@themis.ocn.ne.jp
営業時間:11:00~20:00
定休日:木曜日

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