Trash Gangというバンドをご存じだろうか? 80年代に浜田麻里のバックバンドを務めたZeusのギタリスト「佐藤“GIN”克也」が結成したバンドだ。ミュージシャンとしての実力では高い評価があったが、バンドとしてのスマッシュヒットには恵まれなかった。
私は前職で音楽雑誌に在籍していたので、GINが楽器ブランドのESP在籍して以降が親交の始まりで、彼の卓越したギタープレイと楽器の知識に感服していた。そのため、ブランドスタッフの側面だけで、バンドのTRASH GANGの一面を私は知らなかった。再始動にあたり、GINの半生を賭けた音楽キャリアやミュージシャンとしての心得を訊いた。
GINの略歴
浜田麻里のバックバンドとして知られるZeusのギタリスト。後に自身のバンド「Trash Gang」でメジャーデビュー。バンドの活躍停止後、エンドース関係があったESPに入社。御茶ノ水の楽器店などで販売員をしつつ、ボーカリストなどのバックバンドギタリストという二刀流で活躍。先ごろESPを退社し、TRASH GANGの活動を再開した。
TRASH GANG再始動!!
先日はライブにご招待いただきありがとうございました。GINさんはデモンストレーターや僕の前職でのギターコレクション取材などで以前から私と面識がありましたが、TRASH GANGというバンドでは初体験でした。
いかがでしたか?
まず、めちゃ上手いジャパメタでした(笑)。「ベテランが奏でる本気のジャパメタ」でした。曲を知っていればもっとノレたんで、次回は曲を勉強して楽しみたいです。
ありがとうございます。
Zeusは浜田麻里さんのバックバンドでしたけど、バックというには破格の扱いを受けていました。
まず、ZeusからTrash Gangに至る道筋を教えてください。
僕がZeusにいたのは1988年6月までです。Zeusは浜田麻里さんのバックバンドですけど、バックというには、各種メディアに注目されたりと、破格の扱いを受けていました。が、麻里さんのバンドを抜けて、自分のキャリアがバックバンドとして終わるのはどうか、と思いました。やはり「自分の音楽を作りたい」と。そこで事務所に相談して、若い知り合いに声をかけて僕のバンドを作りました。それがTRASH GANGです。89年にポリドールからアルバムを出してデビューしました。
▲TRASH GANGのアルバム『CYGUARD』。当時のメンバーは、Vo: Nobuhisa Tatezaki、G: Katsuya "GIN" Sato、B: Yoshimi Sugimoto、Ds: Tsuyoshi Komuroの4人。
ジャパメタが一番盛んだった時期ですね
当時はラウドネスを頂点に、浜田麻里さん、44Magnam、プレゼンス、リアクション・・色々なバンドが人気になっていました。Trash Gangは爆発的なセールスこそ出ませんでしたが、ツアーをしたり、色々な媒体で注目してもらいました。
OVAアニメのタイアップもあったようですね。
そうですね。今YouTubeで観ることもできるようなので、ご覧いただくのも良いと思います。
《参考》YouTubeにアップされている『聖獣機サイガード』
エンディングテーマなどで、当時のTrash Gangの楽曲が聴ける。
(※動画は公式にアップされたものではないようようなので、その点ご容赦下さい。)
TRASH GANGはいつ頃まで活動していましたか?
90年か91年頃までです。実は一度も解散していません。
これは失礼しました。ZeusのようなバックバンドとTRASH GANGとでは、ギタリストとして、またアーチストとしてどんなことが違いますか?
Zeusはバックバンドでありながら、周りからいっぱしのバンドして扱ってもらえました。特に麻里さんのお陰もあり、先輩方々や先輩バンドから目をかけてもらったり、後輩やファンから「聴きました!」の声をいただいたり、認知度が高かったことが特徴です。一方で音楽的な部分では、(一般のバンドとは)違いがありますね。麻里さんは「ヘビーメタルクイーン」のように言われていましたが、麻里さんは音楽的な幅が広くて、ヘビーメタルに収まりません。だから、色々なスタイルのギタープレイが求められます。ギタリストとしての「本当の実力」がないと務まりません。それに、麻里さんは大きな会場も多かったので、ギターソロではステージの先端に出たり、今ほど進化していないモニター環境でパフォーマンスも求められました。最初の頃は先輩ミュージシャンなどから厳しい評価とアドバイスももらって、鍛えられましたよ。
TRASH GANGでは「誰のために演奏をしているんだ?」という責任もあるし、バンドとしてクリエイティブな・・隙があれば良い音・演奏を入れてやろうみたいな面も大切です。
一方、TRASH GANGでは?
こちらは自分のバンドですから、自分が矢面に立つアーチスト性が求められます。「誰のために演奏をしているんだ?」という責任もあるし、バンドとしてクリエイティブな・・隙があれば良い音・演奏を入れてやろうみたいな面も大切です。楽曲を再現するバックバンドとの一番の違いはその辺ですね。(以前と現在もマネージャーである)高島さんからは「こじんまりとまとまるな」と言われます。バンドというのは全くその通りです。
先日のライブを初見の僕が楽しめたのは、おっしゃっている部分があるからですね。後半になるほど演奏自体がヒートアップするので、知らない曲でも引き込まれます。ギターとベースの音がきっちりと聞こえて、ヘビーなサウンドなのに音が潰れていない。
本当のヘビーメタルって、そういう音楽です。
ところで、もう一つのバックバンドギタリストのキャリアとして葛城ユキさんのことも教えてください。
葛城ユキさんとの活動は長かったです。 34年間にもなりました。芸歴というか、いろんな形で活動されていた方ですし。それに何回もリバイバルヒットしました。麻里さんとの違いではホールとライブハウスなどの会場の違い、求められるプレイも全然違います。ライブハウスでは自分が一歩も動けない状態になることもあります。でも、ドラマーもすぐそこにいますので。ユキさんからは「ユキさんのロックサイドは僕にオマカセ!!」という信頼もいただいていました。
ユキさんのバックを勤めていた時には、すでにESPに勤務されていたんですか?
元々がESPのモニターギタリストだったんですよ。渋谷(尚武 : ESP創業者)さんには色々と目をかけていただいていて、僕のライブにもよくお越し下さいました。その頃、既にESPはメーカー、楽器店、専門学校とか色々と経営していました。ユキさんのバックやレコーディングなどを続けながらESPに入りました。2009年ぐらいから販売部門に配属されまして、渋谷に、2013年頃からお茶の水に異動になったのかな?
店頭で頑張ってたのは、ギターの競技人口を増やしたいだけなんですよ。
私とのお付き合いもその頃がスタートでしたね。お互い顔は知っているけど接点がなかった。接点ができたのは、ESPミュージアムでのバースト試奏イベントでした。試奏イベントはシリーズで、藤岡幹弘さんやジョシュ・スミスなど名だたるギタリストが登場した中、バーストの回がGINさんという。これはすごいことですね。
(その際の動画が今も残っているようなので、ご覧ください)
その後、僕は御茶ノ水の店頭で、GINさんを見つけるとお話がしたくて、接客待ちをしていました。よく若いお客さんにマルチエフェクターの使い方を丁寧に教えてましたね。僕からすると、初心者には「なんと贅沢な講義を」と羨ましくみていましたが(笑)。
僕はギターの競技人口を増やしたいだけなんですよ。今は「ギターを弾く」、「バンドをやる」っていうことがブームじゃないですよね。 僕らが中学生ぐらいの時にはカッコいい趣味のナンバーワンはバンドやることでしたが、今はもうバンドをやること自体が数あるエンターテインメントの中の一つになっちゃった。だから「とにかく楽器を始めてもらいたい」んですよ。店頭で頑張ってたのもそのひとつで、お客様とお話がしたくてでした。初心者向けにエフェクターをいじってあげていい音を出させるような。余談ですけどマルチエフェクターを買いに来てくれた人には、僕の音をちゃんとプログラムしてあげて、パッチをあげていました。 そういうお客さんは自分で弾くと「マジすか?!」みたいな音が出て喜んでいました。
「やり残したことがいっぱいあったよな」ってTrash Gangが再始動しました。
今回TRASH GANGが再始動になりました。ずいぶん時間が開きましたが、再始動に至るストーリーがあれば教えてください。
ちょっと何年か忘れたけど2018年か19年、コロナの前でした。ボーカルのタテザキ(ノブヒサ)とはよくいろんなところで会っていたんです。彼も自分のバンドがあり、僕もユキさんのバンドが忙しい時期でしたが、1回一緒に飲んだ時に「TRASH GANGやる?」って話になったんです。「やり残したことがいっぱいあったよな」って。僕らにはセカンドアルバムの話もあったんです。それで当時、書き貯めたセカンド用の曲とかもいっぱいあったんですよ。で、「時間もできたことだし、セカンド用の曲をちゃんと形にするか」と言ったのが始まりでした。で、その時に僕とタテザキとドラムと3人ではじめました。ベースは音信不通だったので、3人でずっと曲を作るリハーサルを続けてました。2019年か20年頃。コロナの前でしたね。21年にスタジオに一緒に入って、ライブハウスのイベントに出たんですよ。その後、新たにベースとして水野“MiZ“清久くんに「セッションしてみようぜ」って声をかけました。それがお互いにすごくうまくいきました。去年の11月にそのメンバーで1回。その直後にドラムが抜けて。今はVALちゃん(長井”VAL”一郎)がゲストという形で参加してもらっています。有名なバンドにも参加しているので、現状はまだ完全にメンバーということではないんです。
年齢的にはボーカルが一番フィジカルじゃないですか?年齢的にちょっと厳しいかなと思ってたんですけど、その辺はどうでしたか?
セカンド用の曲とかも、かなりキーが高いと思うんですけど、キーとかは変えません。 彼も今、むしろ進んでハイトーンを出してて、30年たった今の方が上手くなってます。声量も上がってるし、その辺は全然問題ないと思います。
▲佐藤”GIN”克也 Guitar
▲タテザキノブヒサ Vocal
▲水野“MiZ“清久 Bass&cho
▲長井”VAL”一郎 Drums(ゲスト)
GINさんご自身は昔の曲をやったりとかする時の「今」と「昔」と違い・・・機材や自身の技量の変化は感じますか?
僕も技量の進歩みたいなものを感じたりしますよ。むしろ、すごく感じる。ただ、やっぱりフィジカルの部分で言うと、やっぱテンポが上がってくると頑張んないと、っていう部分などはあります。
すでにライブを何回もしていると思います。今のところ対バン形式で若いバンドに混ざったり、初見のお客様も多いと思います。リアクションはいかがですか?
世代間ギャップなどのストレスはありませんね。意外に「アウェーじゃないな」、「ウケてるな」っていう感触です。大々的にプロモーションしてるわけではないので、まだリハビリみたいな感覚だったんですよ。 演奏活動やステージでの演奏は、ずっとやってるけど“自分のバンド”、“自分の音楽”を人前でやるのは何十年ぶりなんです。手探りみたいな部分はあったんだけども、お客様やライブハウスからも気に入っていただいて、出演オファーをずっといただいてる感じですね。
曲はどうですか?TRASH GANGはかなり王道のジャパメタなので。
馴染んでます。ショップ(楽器店)にいたじゃないですか?ショップにいると、今の若い子たちがどういうプレーをして、どんなことやるのか、っていうのも 目の当たりにしてるんです。だから、今のメタルがどういう感じかはわかっていて、ああいうコトは僕らにはできないので、あまりそっちへ寄せようというつもりはありません。僕らは自分たちがかっこいいと思う、80年代や90年代のものを。どうせ好きだからそこ行っちゃうわけなんです。
今回の新作はキックオフのためのボールを置く感じです。キックオフしてが試合開始です。
今回、新作についてお伺いしたいんですが、今日は本当にレコーディングしているスタジオにお伺いしています。何曲ぐらい録って、発売はいつ頃になりますか?
実は、ご存知の方、始めましての方々も含めて、まず視聴していただくことを第一前提としていますので、何月何日リリースというような形にはなりそうにありません。関係者などを含めて、ご興味がある方への名刺代わりのように配布できるような体制でいこうと思っています。今回はリリースというより「このバンドって何だ?」っていう上での表現と思って制作してます。本当、キックオフのためのボールを置く感じです。キックオフしてが試合開始です。
今回レコーディングしているのは何曲ですか?
曲はたくさんあるんですよ、セカンド用に作ったのがアルバム1枚分以上あって、今回のために新しく書いたのも同じぐらいあります。そこからチョイスして4曲録っています。
昔と今ではレコーディング方法の違いは?
レコーディング方法は突然変わったわけじゃないし、ずっとギタリストとして働いてきました。僕自身、最新機材は大好きなので、違和感は全くありません。でも、今日もスピーカーを鳴らして、この古いマーシャルも。
インタビュー当日の機材。Zeus時代から愛用しているマーシャルなども使用している。「機材は、こだわろうとすればいくらでもごたわれる。しかし、テクノロジーの進化も受け入れている」とGINは語る。意外かもしれないが、エフェクトボードは現代のモノばかりで、特にメインのZOOM G3nは初心者から中級者向けの価格帯のエフェクターだ。このボードは、ライブとレコーディングの両方で使われている。楽器店の勤務時代もセールストークで売るのではなく、自らが使っているモノを売る、そういう人柄が人気スタッフだったゆえんだろう。
僕がどうしてもお訊きしたかったことがあるんです。GINさんって非常にキャリアが長いじゃないですか?でも、実際、どうやって音楽へのモチベーションやメタルへの愛情をキープしてきたんですか?
超有名な国民的ギタリストも言ってますけど「ギターが好き」なんですよ。ギターを弾くのが好きだから、ずっとやってるわけですよね。だから本当に「ギター好きの度が外れてるゆえに」っていうことじゃないか、です。先ほどから「ギタリスト」って言っていただいてますけど、もっと平たく言うと「バンドマン」じゃないですか。家にこもってPro Toolsで曲を書いて、音を作るのも好きですけど、やっぱりバンドなんでね。バンドっていうのは、ベーシストが「お前がそうするんなら、俺はこうだよ」「俺はこうするからお前は?」みたいな面白さだと思う。だから、「他の人と音を出すのは楽しいよ」っていうことに気づいてくれればいいかなと思うんです。
TRASH GANG ライブスケジュール
直近のライブは
2023年12月29日(金) 「吉祥寺クレッシェンド」
クレッシェンド主催、年末HevyMetalパーティー(タイトル詳細未確定)
に出演が決定している。
インタビュー/写真: 森廣真紀(ギタータウン)