Guitar maintenance Guitar Doctors File

Guitar Doctors File - ESP Guitar Workshop

Feature

ESP Guitar Workshop

プロや一般のアーティストにESPの技術を供給するスタイルの楽器店

ESP Guitar Workshopは御茶ノ水・駿河台上にある楽器店。各フロアはテーマ別のフロア構成となっている。商品もギター/ベースはESPブランドに特化した品揃え。メーカーとしてのESPが“R&D”(Reserch &Development)を兼ね、一般ユーザー向けにオープンしたという歴史的な背景がある。

よく自動車やスポーツ用品メーカーなどでは、製品開発とマーケティングを兼ねたR&Dセクションを設けている。そこでは一般の製品開発の他、競技会などへの参戦や特別なブランド製品の販売などをしている。『ESP Guitar Workshop』は、R&Dの要素を取り入れ、メーカーとしてのESPがその技術をプロや一般のアーティストにフィードバックすると同時に楽器店でもある。単に商品を販売するのではなく、製作技術を多くのユーザーに解放し、最新の流行なども吸収する、世界でも稀なスタイルだ。

 

 

Staff Interview

リペアスタッフ・プロフィール

林 宏樹(はやし・ひろき)

オープンから十年以上過ぎた現在でもリペアスタッフは2名が在籍し、いつでも最高の技術を提供できる体制を保持している。ESP開発部の元チーフとして、ESP製品の多くの開発に携わった。当時からアーティストの超ハイレベルな調整にも応え、現在はその腕前を一般ユーザーにも披露している。

林 宏樹は、同店のリペア担当とギタークラフト科講師を兼務。さらに、ESP開発部のチーフを長く経験した経歴の持ち主だ。

-林さんのキャリアについて教えてください。

林 : 日本ギター製作学院を卒業し、ESP ミュージカル・アカデミー ギタークラフト科の講師となりました。その後、ESPの開発部に勤務し、現在はESP Guitar Workshopとギタークラフト科講師を兼務しています。

-ESP Guitar Workshopでは林さんと丹羽 裕介さんの二人体制だそうですね。

林 : 当店ではいつでも対応できるように二人体制でいます。若い丹羽とは、年齢やギターの好みも違うので重宝しています。

-林さんはメーカーとしてのESPの開発部に所属していたとお聞きしています。

林 : はい。開発部ではチーフとしてギターやパーツの開発に携わりました。中でもPotberryやSnapperなどには大きく関わっています。他にも多くの定番モデルのリシェイプも手がけています。

 

お客様のリペアーにすぐ対応するため各社の、無数のパーツを常時在庫しています

-林さんは、開発部時代から人気ミュージシャンやスタジオミュージシャンのギターのケアもしていたそうですが?

林 : 彼らの場合、楽器が壊れたから依頼するのではありません、プロの現場で「こういうことがあったから、こうしてほしい」というような相談が多いです。例えば「原因不明の共振が出ているから抑えてほしい」など。よく調査すると、思わぬところが不調だったり。他には「メインとサブ機の重さを同じにしてほしい」など。たった数グラムの違いだけれど、あれこれチューナーを取り替えて、バランスをとったり・・地道な作業です。彼らの次元だと、教科書的なメンテではなく、もっと抽象的なメンテナンスになります。

-ESP Guitar Workshopに異動してからの違いはありますか?

林 : リペア自体作業は変わりません。このフロアにサンダーやボール盤、帯ノコギリなどの設備はありますから。一番の違いは取り扱う楽器が、開発部はESPのギターだけでしたが、ESP Guitar Workshopでは他社のギターやベースが半分かそれ以上あることです。他社の製品では、時代ごとの細かなパーツの違いがありますが、具体的にモノを見ないと互換性がわかりません。楽器を持ってきてもらえれば、どのパーツが合うかはわかります。

-すごい数のパーツの取り扱いですね。

大熊(店長) : ESPブランドに限らず各メーカーの物を幅広く在庫しています。これだけの種類のパーツを在庫しておくのは店としては大変です。が、ESPブランド以外の楽器の修理も行っているので、お客様のリペアにすぐ対応する為に様々な種類のストックが必要です。ご自身でパーツ交換が出来るお客様はパーツを買いに来られますし、リペア業者の方の来店も多いです。それぞれのパーツを手に取って実物を見られるので、当店は、そういうところも楽しんでもらえるお店だと思います。

▲リペア・フロアのパーツ類。部屋の4面がパーツに囲まれている。

 

リペアする立場から私が開発した製品も数々あります。

-パーツも林さんが開発したものがあるそうですね?

林 : 「ココは気が利いている」と、他のリペアスタッフも気になるようなものが作りたい。そういう人間がリペアをしている。逆に、リペアをしているから気が付くところもあります。パーツだと私が開発したのはESPから出ている「スプリット・シャフト・スペーサー」、「Metal Knob Noise Killer」、「Tremolo Tone Spring Type-2」、「ピックアップフェンス」、「フィンガーレスト」「シム」、「ロックトレモロのスペーサー」、「ストリンガー」などです。リペアの現場でのアイデアを基に考案、アレンジしています。

-ずいぶんありますね

林 : 例えばスプリット・シャフト・スペーサーなどは、ボリューム・ノブのシャフト部の割れ目部分に挟む固定用具です。昔のリペアマンなら弦のパッケージやピックの破片などを挟みましたが、それは他のリペアマンが開けた時に美しくない。そのため、適切な厚さや素材で適切な固定と美しさを兼ねたパーツにしました。またMetal Knob Noise Killerは、TLタイプのような金属ノブ用のパーツです。操作時にシャフトガリノイズが出やすいのですが、板バネ状に加工された特殊ワッシャーで通電させ、強制的にグラウンド接地させます。小さなパーツですが、これを使うだけで一瞬のノイズも抑制できる優れモノです。他のはギタータウンさんで説明しておいてください。

-わかりました(笑)

▲左からESPマルチスパナ、スプリット・シャフト・スペーサー、フィンガーレスト。これらも林 氏によるパーツだ。

 

予算が豊富なら、ご要望通り。ただ、「こういうアプローチでやればできますよ」という提案もしています。

-開発とリペアの両方をしていて気づくことなどはありますか?

林 : 設計も調整もプロが仕事をしていれば、シンクロもフローティング・トレモロでもチューニングは簡単には狂わないです。もし、演奏でチューニングが怪しい時も、少しアームに触れるだけでチューニングは元に戻ります。あとは弾く側のたしなみの問題だと思います。それがプロの仕事です。プロの仕事を信じてほしい。

また、リペアやチューンナップも断るというスタンスは基本的に無しにしています。お金と時間をかければ何でもできます。予算がたくさんあるのであれば、ご要望通りにすることもできます。ただ、問題は「お客様の予算では無理」とか別になることも。そういう時は「こういうアプローチでやればできますよ」という提案をします。ESP Guitar Workshopでは、メンテナンスもリペアもギターをお預かりして、見てからはじまります。

▲取材日に手がけていた1960年頃のエレクトリック・アップライト・ベースの修理。筆者も林氏も見たことがないP.U.を搭載、ボディもFRPという代物だ。このような特殊な楽器でも調査し、構造を解明。地道な作業で、楽器としての性能を回復する。

インタビュー内に登場した林 氏が開発に関わったパーツ類を一部ながら紹介しよう。これらはいずれもリペアの現場だからこそ生まれるアイデアだ。機能やアイデアはもとより、美しく仕上げることも林 氏の美学に適った製品と言える。

■ストリンガー
ESP STRINGER
https://espguitars.co.jp/accessory/9507/

ESPストリンガーは、ギターに弦を張る際に適正な長さに弦をカットする目安とする道具だ。
一般的なギターチューナーはストリング・ポストに2~3回などの巻数で弦を巻く。その際、慣れないと弦が外れたり、チューニングが不安定に。さらに巻き過ぎるとテンション感にバラツキも生まれやすい。ESPストリンガーをストリングポストにあてて、弦を適切な巻数の位置でカットする。これにより、常に安定したチューニングとテンションでギターが弾ける。実用新案登録 第3131642号を取得している。

■メタルノブノイズキラー
ESP Custom Lab
Metal Knob Noise Killer
https://espguitars.co.jp/parts/442/

TLタイプなどの金属製ボリュームノブを使ったギター/ベースは、シャフトガリノイズが発生しがちだ。それはグランド接地が不安定な構造と金属製ボリュームノブに触れた際の指を通じてのアースが原因だ。
メタルノブノイズキラーは板バネ状に加工された特殊ワッシャー。これをポット本体とノブの間に挟み込んで、双方を強制的に通電させる。

※スイッチ付きポットには使用できません。

装着例(ボリュームノブは付属品ではありません。)

■トレモロスプリング
ESP Custom Lab
Tremolo Tone Spring Type-2
https://espguitars.co.jp/parts/320/

シンクロタイプのトレモロ、及びシンクロタイプと同様の仕組みのトレモロにおいては、スプリングが様々な役割を担っている。
主な用途はテンション調整で、一般には本数の増減により調整する。しかし、単純に本数を増やすとフローティングができなくなり、アップ時にはスプリングが外れるなどの弊害もあった。Tremolo Tone Springはソフトで、しなやかな素材を使用したスプリングを使用。それらの問題を解決した。
さらに、素材を変えたことで、サウンドも変化した。特にTYPE-2では線径とスプリング外径を太くしている。そのサウンドは、しなやかさを保ちつつ、ハイミッドの音域強化を実現している。ユーザーからはそのサウンドの変化も好評だ。
また、TYPE-1や従来のスプリングと組み合わせることで、テンションとサウンドの選択肢が、より大きく広がる。

■ロックトレモロのスペーサー
Saddle Spacer
https://espguitars.co.jp/floydrose/upgrades/580/

Floyd Roseトレモロ向けのサドルスペーサーだ。Floyd Roseはブリッジ全体の高さ調整機能はあるが、サドル単体での高さ調整機能がない。そのため、サドルスペーサーをサドルの下に挟んで止めることで、「6弦だけもう少し高めにセッティングしたい」などの要望に応えることができる。材質はステンレス鋼で、厚さは0.1mm、0.2mm、0.3mmの3種があり、4枚入りで販売。

■シム
ネックセットシム 0.5mm
https://espguitars.co.jp/parts/307/

ネックセットシム 0.25mm
https://espguitars.co.jp/parts/303/

0.5mm厚

ボルト・オン構造のギターのネック接合部に使うシムだ。ボルト・オンのネック・ジョイントは、わずかな角度の違いがサウンドと弾きやすさに影響する。旧来のリペア現場では、調整する職人が紙などを切り抜いて挟んだが、それは厚さも曖昧で、将来別の職人が分解した時の見た目も悪い。ESPのネックシムはバルカンファイバー素材を使い、2つのネジ穴を開けて成型した専用パーツ。厚さは0.25mm厚と0.5mm厚の2種がラインナップ。合理的で、美しい仕上がりの専用品だ。

■ピックアップフェンス
ESP Custom Lab
Pickup Fence
https://espguitars.co.jp/parts/358/

ベース用のピックアップフェンスだ。元々ピックアップフェンスは、ピッククアップへの外来ノイズをガードするパーツとして生まれたが、現在はスラップ奏法時のポジショニングをサポートする役割の意味合いが強い。
ESPピックアップフェンスは、従来品よりも低く、高音弦側は特に低い。さらに、スラッププル時に小指が当たりやすい部分と2フィンガー奏法時に妨げとなる部分をカットする加工も施されている。また、高さ調整用のラバースペーサー(1mm厚、2mm厚 各2枚)が同梱されている。

■フィンガーレスト
ESP Custom Lab
Finger Rest
https://espguitars.co.jp/parts/342/

ESPカスタムラボ・フィンガーレストは、従来のブロック状の指置きとは一線を画すコンセプトと性能のベース用フィンガーレストだ。
まず、L字の形状となっている。これは最低音弦のさらに下、例えば4弦ベースの場合、フィンガーレストが“仮想5弦”の役割を果たす。つまり、フィンガーレストを4弦近く(弦間と同じイメージ)の場所にすることで、4弦を含む全ての弦で快適なフィンガーリングができる。この場合がブロック状の指置きと最も異なるメリットだろう。また、上部は滑らかな加工で、触感も良い。実用新案登録 第3139701号を取得している。

 

ESP Guitar Workshop

ESP Guitar Workshop

〒101-0062
東京都千代田区神田駿河台2-2-25

■営業時間
営業時間 :
[平日]11:00-20:00
[土日祭]10:00-19:00
TEL 03-3292-3431
FAX 03-3292-3435

■アクセス
JR御茶ノ水駅 徒歩2分
メトロ 千代田線 新御茶ノ水駅 徒歩4分
メトロ 丸の内線 御茶ノ水駅 徒歩4分


※掲載内容は2022年2月時点の情報です。

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