「SUMIMARU GUITAR」「炭丸ギター」という新しいギター&ウクレレのブランドが登場した。このブランドは、神奈川の逗子で競技用ヨットなど修理しているカーボンファイバーのスペシャリストが製作するハンドメイドのカーボン製アコースティックのブランドだ。
炭丸は、湘南の逗子にある「オリジネート」という会社が製作している。この会社の尾崎充克氏は約三十年にわたって競技用ヨットや船舶の修理をしている経歴の持ち主だ。7年ほど前に尾崎氏の友人であるミュージシャンから「カーボンを使ったウクレレを作ってほしい」と相談されたことが、楽器を作るきっかけとなった。尾崎氏自身は楽器のプレイヤーではないものの、楽器の製作に興味を持ち、船舶の修理の傍らウクレレの製作に着手した。
開発とは試行錯誤の繰り返しだ。当初はやや大型のボディとボディのサイドにサウンドホールがあるなど“行き過ぎた感のある”ウクレレだった。しかし、30本ほどの試作を重ねて、今回紹介する「Carbon Guitar」「Carbon Mini Guitar」「Carbon Tenor Uke」
が完成。まだ、これらはプロトタイプの延長上で限定的に発売されるものだが、カーボンの長所を生かし、楽器として、圧倒的な音量やサステインなど画期的とも言える性能を持っている。
炭丸の特徴
超軽量
フルサイズのギターで約1.75kg、ミニサイズのギターでは約1.25kgと木材のギターとは比較できないほどの軽さ。
大きなボリュームと長いサステインがあるサウンド
カーボンは木材より、軽く、振動し、堅牢だ。そのため炭丸にはトップにブレイシングがない。また、「ネック」と「ボディのサイド&バック」を一体構造で製作。ネックは指板を貼っており、内部は空洞となっている。このようにギター全体で弦の振動を受け止め、さらに反響させている。
これらの効果が複合することで、生のサウンドが大きく、サステインも長い。開放弦だけでなく、ハイ・ポジションでもサステインが長いのは画期的でプレイヤーには大きなアドバンテージとなる。
そして、木製のギターと比べると新鮮な印象こそあるが、カーボン特有の不自然なサウンドではない。
▲炭丸が作られている工房 写真右の赤いのがミニギターを製作する際に使われる「型」だ。この型にカーボンを入れて、一体化したネックとボディを製作する。まさに手間がかかる手作業によるハンドメイドだ。 製作台にはプロトタイプや製作中のギターなどを並べてみた。
和音が美しく、マイク乗りの良い音
聴感上、音が澄み切っており、特に和音は美しく聴こえる。レコーディングなどでのマイクの乗りはよさそうだ。またエフェクターの乗りも良いだろう。
圧倒的な対候性
ヨットは海水に浸かり、海水や外気の温度変化も激しい場所で使われている。炭丸で使われているカーボンはヨットで使われる素材なので、対候性は木材と比べものにならない。
音楽の野外ステージが雨に濡れ、気候の変化あったととしても、海中の比でないことは言うまでもない。特にストリート・ミュージシャンや野外ステージでは嬉しい性能だろう。
▲塗装前のボディ。ボディ&ネックに、トップを貼り、その上に(マスキングされている)指板とブリッジを接着する構造。
オール・カーボンによる耐久性
カーボンは木材よりも衝撃に強く、極めて変形しにくい。楽器なので、ヨットに比べて、強い衝撃がかかることは考えにくく、あまり気にしないでも良いだろう。
楽器をよく知る人なら新素材を使ったギターの過去の失敗例を思い出す人もいるかもしれない。たしかに新素材を使ったギターには様々な問題点が指摘されたものもあった。ただし、それらの多くは木材と新素材を部分的に組み合わせたギターで発生している。その原因は新素材ではなく、木材が変形することが原因で発生した。炭丸はペグやステンレスのフレット、ナット、ブリッジピンなどを除き、良質のカーボンだけで作られている。そのため、以前の木部を併用した新素材ギターの失敗例とは無縁だ。
炭丸の最初のプロトタイプから7年が経過しているが、現在も楽器としての性能をキープしている。そのため炭丸にはトラスロッドなどの調整機能はない。
▲ミニギターのサウンドホールの内側の写真。指板の直下に薄い板が見える。これは中空構造のネック部分の補強材だ。独特の構造のため、従来とは全く異なる工夫がされている要素。なお、これは全ての機種で採用されている。
これらを実現した背景には、尾崎氏の経験と技術、熱意がある。この記事ではカーボンと一口に書き進めているが、使用箇所に応じてカーボンの厚さや網目模様、処理方法などが場所によって異なる。
▲ウクレレのトップ この写真では、トップとブリッジ、指板のそれぞれが異なるカーボンで作られているのがわかる。
炭丸ではカーボンは三層構造となっており、ある素材を上下からカーボンで挟んでいる。作業としては、工房内の写真(上記)で立てかけられているオレンジ色の専用の型にカーボンを流し、次にある素材を挟み、さらにカーボンを流す。
カーボン部材は全て尾崎氏の手作業によって、オリジネートの工房で製作されている。炭丸は尾崎氏個人の技術による部分が多く、現在はヨットの修理などの合間を縫う作業なので、月産でわずか1本程度という希少なハンドメイド品でもある。
ヘッドの形状とブランド名の由来
「炭丸」とは、カーボンの「炭」、船の名前に使われ、幼少時の名前でもある「丸」から命名されている。
ヘッドのデザインは、ボートを漕ぐ「オール」をモチーフにしている。
弦の振動をしっかりと受け止めるボディのトップ
尾崎氏はカーボンのスペシャリストであり、競技用のヨットなどで培った高精度なハンドメイド技術の持ち主だ。そのため、楽器を設計する最初の時点から木製のギターとは視点が異なる。
炭丸では弦の振動をボディとネックで受け止め、ボディで響かせる。その目的だけを重視した結果、炭丸にはブレイシングがない。堅牢で軽量、振動しやすく、構造の立体化がしやすいカーボンの特徴を熟知しているからこそ実現できた構造だ。カーボンの性質を生かして、弦の振動をロスせず、楽器全体で鳴らすことを重視している。まるで、レースに勝つために限界に挑戦するヨットと同様の発想だ。
(取材したミニギターにはカーボン製のブレイシングがあるが、これは補強の目的で、現在製作中のモデルからはブレイシングはなくなる。)
▲トップを切り出す際のテンプレート
【製品レビュー】「Carbon Guitar」
▲「Carbon Guitar」参考価格=296,000円~(税抜)
※掲載品はプロトタイプで、今後様々な仕様が変更となります。また、製品として正規に流通する際の販売価格は変更となりますのでご了承ください。
現在、完成しているフルサイズのカーボンギターのうち1本。このギターではフィッシュマンのピックアップを搭載したプロトだ。
クロサワ楽器池袋店で試奏可能な状態で展示販売されているプロトタイプとも細部の仕様が異なる。池袋店のモデルでは、ブリッジがピン・レスの一体型で、MI-SIのピックアップを搭載している。
全長が1015mmのフルサイズながら、参考重量が1.75kgと軽量。しかし、サウンドは音量の大きさ、低音のダイナミックさ、澄み切った高音など、木製のギターを凌駕する。
特に6弦開放のEなどは大変長く響いており、プレーン弦のサステインも長い。これらは開放弦でベース音を鳴らしながらプレイするスタイルには有利で、高音域のサステインは今までなら何度もピッキングしなくてもロングトーンのようなメロディが弾ける。
音量が大きいので、ピッキングの強弱の幅が広がる。楽器の性能の違いが演奏の違いを生み出す絶対的な違いとなりそうだ。
ボディ・トップのカーボンは、弦の張力に耐えつつ、最大限に振動するレベルまで薄くしている。
指板のカーボンは模様や厚さ、塗装の有無などで、トップのカーボンとは異なる。炭丸では場所によって、様々なカーボンを使い分けている。
また、使われているフレットはステンレス・フレット。ステンレスはサウンドに優れているが、加工がしづらく、ギター製作家泣かせな素材だ。しかし、船舶では多用される素材だからか、尾崎氏は積極的に採用している。
ボディバック。ネックとボディバックの一体構造のため、ネック・ジョイントやネック・ヒールが存在しない。また、バックは全面がダークグリーンで塗装されている(トップの周辺もサンバースト風にグリーンで塗られている)。
余談ながら、塗装はかなり硬質で、ピックが多少当たった程度ではキズが付きにくい硬質なウレタンを使用している(塗装自体がピックガードというイメージで開発しているようだ)。
一般のギターでのネック・ジョイントは“ほぼ15フレット位置”となる。この位置となったのは前後にずらした試作を行い、一番音が良いポジションを選んだ結果だという。カッタウエイ無しでも、ネックヒールがないためハイポジションには手が届きやすい。
《SPEC》
Construction ……….C”rbon fiber composite
Over”ll length………… 1015mm
M”x body width………..390mm
M”x body depth…………113mm
Weight……………………. 1.75kg
Fretboard Width at Nut………. 43.5mm
Fretboard Width at 12 Fret……. 56mm
Fretboard……CFRP 16″ r”dius
21 frets over”ll
St”inless Steel Fretwire
Saddle & Nut Material…….Tusq
Tuning Machines………..Gotoh
Option
MI-SI Acoustic Trio
【製品レビュー】Carbon Mini Guitar
「Carbon Mini Guitar」参考価格=267,000円~(税抜)
※掲載品はプロトタイプで、今後様々な仕様が変更となります。また、製品として正規に流通する際の販売価格は変更となりますのでご了承ください。
全長895mmのミニギター。なんと重量は1.25kgと驚異的な軽さだ。サイズはコンパクトだが、木製のドレットノートと変わらないレベルの音量がある。
指板の模様やトップの厚さ、ブリッジの弦の止め方など、フルサイズとは異なる別のモデルだ。そのため、サウンドのキャラクターが異なり、中音域が強調された音が特徴。
取材したモデルは独特の赤い塗装で、カーボンの模様の凹部だけが赤。トップもバックも共通の塗装がされている。
このミニギターではスペック表通りのMI-SIのピックアップシステムを搭載している。
写真のモデルはサウンドホールが2つだが、1つのモデルも過去に製作しており対応可能だ。
《SPEC》
Construction ……….C”rbon fiber composite
Over”ll length………… 895mm
M”x body width………..332mm
M”x body depth…………93mm
Weight……………………. 1.25kg
Fretboard Width at Nut………. 43.5mm
Fretboard Width at 12 Fret……. 53mm
Fretboard……CFRP 16″ r”dius
20 frets over”ll
St”inless Steel Fretwire
Saddle & Nut Material…….Tusq
Tuning Machines………..Gotoh
Option
MI-SI Acoustic Trio
【製品レビュー】Carbon Tenor Uke
Carbon Tenor Uke 参考価格=186,000円~(税抜)
※掲載品は今後プロトタイプで、様々な仕様が変更となります。また、製品として正規に流通する際の販売価格は変更となりますのでご了承ください。
炭丸にとっての出発点であり、開発する上でも試作本数が多かったのがウクレレだ。取材したのは、テナーサイズのカーボン・ウクレレだ。
《SPEC》
Construction ……….C”rbon fiber composite
Over”ll length………… 685mm
M”x body width………..237mm
M”x body depth…………84mm
Weight……………………. kg
Fretboard Width at Nut………. 38mm
Fretboard Width at 12 Fret……. 46mm
Fretboard……CFRP
19 frets over”ll
Saddle & Nut Material…….Tusq
Tuning Machines………..Gotoh
Option
MI-SI Acoustic Trio Uke
【動画目次】
0:00 イントロダクション
0:17 Carbon Guitar
3:42 Carbon Mini Guitar
5:18 Carbon Tenor Ukulele
取扱店スタッフ・インタビュー
20年6月現在、炭丸の製品を手に取って見ることができるのは「クロサワ楽器池袋店本館3階」だけである。実はこのフロアはアコではなく、ハイエンド・エレクトリックの専門フロアだ。というのも、炭丸はこのフロアの石井フロア長が楽器業界で初めて見初め、最終プロトの展示販売などに漕ぎつけたためである。今回、その出会いからおすすめのポイントまで、石井フロア長に詳しく訊いた。
「これほどまでに柔らかい音が出るとは!」と感動しました。
クロサワ楽器池袋店 本館3階
石井 雄揮 副店長
-炭丸ギターはどのようにして知ったのですか?
当店では逗子にあるKz Guitar Worksさんのギターもお取り扱いしています。5月のある日SNSを見ていたら同じ逗子関係の書き込みで炭丸さんのギターを見かけました。それが炭丸ブランドを知った最初です。その日のうちに炭丸さんに連絡をとって、すぐにお伺いしました。
-動きが素早いですね。直感で惹かれるものがあったのですか?
そうですね。国産でオール・カーボンのギターは全く無かったと思います。今までなら「ギター製作をやっていた人がカーボンを使う」という流れでしか作られませんでした。でも、炭丸は「カーボンのスペシャリストがギターを作る」という全く逆のアプローチです。「今までのカーボン・ギターとは違うものができているんだろうな」と直感しました。
-逗子の工房で実際に触ってみたらいかがでしたか?
パッと見た時には、「想像よりバックのカーブがあるな」と思いました。実際に、音を出したら、全然カーボンらしい音ではありませんでした。
-石井さんはそもそもカーボンのギターはどういう音だと思っていましたか?
カーボンだと、もっとカチンカチンの音で、木材のギターとは似ても似つかないイメージがありました。しかし、炭丸を弾くと「これほどまでに柔らかい音が出るとは!」と感動しました。
ライブとかストリートとかで弾き語りする人にはおすすめですね。ストリートとかでもPA無しでもいけるんじゃないかと思うほどの音量です。
-先入観が打ち破られた?(笑)3本の中で、最初に手に取ったのは?
フルサイズの方でした。カーボンなのに木製ギターみたいな音がしたのには驚きました。次にミニギターを触ったら、さらに度肝を抜かれましたね。ミニのサイズ感で、普通のギターと同じかそれ以上の音量がありますから。
-ミニ・ギターは特にお気に入りのようですね。
どちらもです(笑)。でも、今まで、ミニサイズは、音が小さくて、こもっているとか・・音では木製だとフルサイズに敵わないというのが定評でした。ですが、このギターはフルサイズに比べて遜色ないボリューム。むしろ、音さえも良いかもしれませんね。耐久性だけでなく、音のきらびやかさも木製ギターが持っていないものがありますし。「これは絶対に私が売りたい」と、その場で思いましたね。
-ぞっこんですね。フルサイズの見どころは?
ミニ・ギター以上の音量。ライブとかストリートとかで弾き語りする人にはおすすめですね。ストリートとかでもPA無しでもいけるんじゃないかと思うほどの音量です。迫力はミニ・ギターよりもありますね。
-私は、フルサイズが好みです。低音も高音も両方出ますから。この音は反則ですよ(笑)。
こういうギターは、木製ギターでは無かったとは言いませんが、なかなか無かったと思います。
-もう一本のウクレレについては?
ギターのインパクトが強すぎますよね(笑)。ウクレレは元々が小さいから軽さのインパクトは少ないかもしれません。でも、木材とは鳴り方とかが違って、高音域の澄んだ感じとかデザインが全く新しいですよね。普通のウクレレは常夏のイメージが強いじゃないですか。炭丸はスタイリッシュだと思います。カーボンの模様やバックの形とかはこれまでにない。あとは、オールカーボンだから反ったりの修理の必要がないのでメンテナンスフリーという意味でも炭丸のウクレレはお選びいただける価値があると思います。
今はサンプル品ですが、クロサワ楽器池袋店本館3階で展示と販売をしています。(2021年6月にクロサワ楽器池袋店 エレキ本館扱いになりました。)
-私も工房に行きましたが、カーボンというと量産のイメージかあるから工場だと思っていました。行ってみたら工房が小さくてびっくりしました。尾崎さんが1本1本完全にハンドメイドで作っている。尾崎さんの職人技。
私よりも石井さんの方がたくさんの炭丸を触っていると思うのですが、個体差はありましたか?
今はサンプルとかプロトですので、個体差は多少ありますよ。それは低音や高音の出方、音量とかに多少感じる程度。仕様の違いによる出音の違いなどを確認しているのではないでしょうか? “炭丸としての音”はすでに完成していると思います。今、この違いを知ることで、お客様からオーダーを受けた時に安定した製品をお届けできますし、カスタム・オーダーをいただいた場合の音の違いをご提案できると思います。これはとても大きなメリットです。
-クロサワ池袋店本館3階(※)には、3タイプのギターとウクレレがありますが、これを買うこともできますか?
今はサンプル品の展示と販売をしています。今生産している製品も近日当店に入荷します。ですので、まず店頭品でお試しいただきたいです。追って、お客様のリクエストに応じたカスタム・オーダーを含めた販売形態も整うと思います。
※炭丸はアコースティックがある新館ではなく、担当の石井さんがいる本館3階に展示中。
-今のカスタム・オーダーで考えている内容はどのようなものですか?
こういう色にしたいとか、お客様のリクエスト内容を私が精査させていただき、炭丸さんに“できる、できない”を問い合わせる。そういうすり合わせを私がさせていただく、そんな流れを考えています。
クロサワ楽器池袋店【エレキ本館】
www.kurosawagakki.com/sh_ike
住所:東京都豊島区南池袋1丁目25-11 第15野萩ビル B1F
お問合せTEL:03-3590-9638
E-mail: ike@kurosawagakki.com
営業時間 : AM11:00~PM8:00
【問い合わせ先】
炭丸ギター