2022年12月17日に第3回Nutubeビルダーサミットが下北沢のG-ROKS 1スタジオで行われた。これは(株)コルグが提案する新世代真空管Nutubeを使った自作エフェクターのコンテストに、三枝文夫 氏の講演など様々な関連イベントを交えたイベントだ。
コンテストで審査された自作エフェクターは3機種。レギュレーションはNutubeを使用していることだったが、今回はいずれも歪み系である。
審査には日本を代表するエフェクターの見識者たちに加えKORGとVOXのエフェクター開発者たち。特に見識者は下記の通りだが、まさに日本のエフェクターシーンをリードする豪華さで、サミットと名乗るにふさわしい。また、デモンストレーションは今をときめく人気ギタリストAssH氏。彼は当日初めて触れたエフェクターだったにも関わらず、それぞれの特徴を明確にアピールする演奏を披露した。
それでは、3台のエフェクターの紹介と審査コメントを紹介しよう。
(※コメントはギタータウンで要約しました。)
【審査員方々】
・エンドウ. 氏(「ド素人のためのオリジナルエフェクター製作」著者)
・田中祐輔 氏(Ovaltone)
・川井洋平 氏(Sunfish Audio)
・齋藤和徳 氏(Soul Power Instruments)
・北田駿一 氏(KarDiaN)
・下総淳哉 氏(司会 / The EFFECTOR BOOK)
・三枝文夫(コルグ 監査役)
・KORG Nutube開発チーム (遠山雅利 氏 / 森川桜子 氏)
・VOX開発チーム (塩谷好古 氏)
■【優勝者】Nusora 可燃ごみ箱 氏
Nutubeの「蛍光」を利用した回路を採用、歪みにコンプレッサーのような動作が加わるのが特徴となる。小型で手軽に真空管のような音が味わえるエフェクターを作ろうと思いミニサイズのオーバードライブとして製作。
【審査員コメント】
森川桜子 氏(コルグ開発部)
回路コンプの回路に工夫があるようです。光の強さを光センサーで量ってコンプをかける、ギター入力の光の強さでコンプをかけるという仕組みです。これは新しいと思います。
エンドウ. 氏(「ド素人のためのオリジナルエフェクター製作」著者)
音が一番好き。全部のツマミを10にしたときに音がデカかったので、音が大きいエフェクターが優勝でよいのではないでしょうか?(会場笑)
ただ小型の筐体に入れることに意味があるかというと、そうではないとも思います。
コントロールできるツマミを増やして、現場での使いやすさがあると更に良かったと思います。
川井洋平 氏(Sunfish Audio)
技量の高さを感じます。複雑な回路を使いながら、シンプルな操作を追求していることがわかります。NuTubeの後がバッファーになっているので、ローの切れ方をもっと出すか、逆にローを絞ってミドルを出すと使いやすいくなると思います。
■Different Jacket 藤本淳二 氏「あまり歪まない真空管アンプをファズでブーストさせた時」の音をイメージして作成。プッシュ/プル・アンプを模した回路にファズフェイス風のブースターを突っ込んだ構成。つまり「良い感じのFUZZFACE」。
【審査員コメント】
北田駿一 氏(KarDiaN)
第一印象から音がかっこいい。前段がファズで、後段がプリアンプという構成でパッケージ化されていることが製作コンセプトとして明確です。ただ、気になる点として、ゲインを挙げた時の楽しさが欲しいと思います。ファズはゲインを10で使うのものという考え方もありますが、ゲインのツマミを付けた以上、変化を楽しむ方法があっても良いはずです。現状では、Bカーブなので8時から12時ぐらいまでの動きが鈍く感じます。この部分を見直したら、音作りをもっと楽しめるのではないでしょうか。
齋藤和徳 氏(Soul Power Instruments)
サウンド的に好みです。が、パワーアンプ的にNuTubeを使おうとするアイデアに新しさがあるか?というと、これは想定できる範囲です。エフェクターとしての完成度は高いのですが、今回はコンテストなので目新しさが欲しいです。AssHさんの演奏では、ファズというよりオーバードライブのような感じでしたね。個人的にはNuTube自体で歪みを作るよりも、味付けに使う方が好みに感じます。
■Dual Nutube Driver 牧角知祥 氏
Tube Driverの回路図を参考に、真空管部分をNutubeに置き換える。Nutubeは小型で発熱が少ないということにより、1590Bケースに2セットを詰め込んだ。VOLUME、TONE、DRIVE×2列のコントロールとなる。
【審査員コメント】
エンドウ. 氏(「ド素人のためのオリジナルエフェクター製作」著者)
Nutubeというものは内部抵抗やインピーダンスの関係で、間にバッファを入れないと音量が下がってしまいます。仮に1台で0.8倍とすると2台では0.8×0.8で0.64倍というようにどんどん音が小さくなってしまうのが残念でした。
しかしそれに目を瞑れば悪くない音でした。ツマミの多さもワクワクしましたし、Nutubeを2つ使うという心意気も好きですね!
田中祐輔 氏(Ovaltone)
まず一番のポイントはNUTUBEにバイアスがかかっていないことです。これが意図したものという事であれば、バイアスをかけないことでユニークなゲートファズを得ているところが工夫のポイントだと思います。ただ音量がユニティーよりも下がってしまう為、もし意図的にバイアスをかけていない場合は、後段にレベルをリカバーする段が必要に感じました。大きなノブが6個並ぶルックスは武骨で、個人的には高評価となりました。
今回はコンテスト応募作品3点の他、コルグ開発部が今回のイベント向けに製作したエキシビション・モデル2点もイベントに華を添えた。
■檸檬 KORG開発部によるSpecial Exhibition Model
TR-Sのコントロール部分を簡略化し、簡単かつ使いやすくしたもの(コントロールはVolume、Power、Mix、Tube Gain)。「檸檬のような音がする」というのが製作者の印象。
■Nutube DISTORTION KORG開発部によるSpecial Exhibition Model
すでに発売されているNutube搭載オーバードライブOD KITを改造したもの。Nutubeの前にLEDを追加することで歪み量をアップ。OD KITとは異なった、深い歪みのディストーションになっている。
この日は、
『TR-S/HD-S講座』として、KORG開発陣が両製品を簡単に改造する方法や裏ワザともいえる設定方法を伝授。また、新たな接続方法の提案などをセミナー形式で実証。
さらに『【特別講義】エフェクター誕生の頃〜ユニバイブからシンセサイザーへ〜』として、エフェクターの開発史に大きな足跡を記している三枝文夫 氏が講演した。その内容は、少年時代に開発したエフェクターのアイデアやテスコ、シンエイといった楽器メーカー在籍時のお話。Uni-Vibeのコンセプトなど貴重なエピソードを披露した。